ワイン中に含まれるエステル化合物は,ワインのフレーバー(味および香り)の構成要素として非常に重要である。本研究課題は,ワイン醸造で用いられるペクチナーゼ製剤に見出されたエステル生成反応を解明し,本反応を利用した新たな醸造技術の開発を目的とする。平成28年度は,2つの下記の項目を行った。 1.ペクチナーゼ製剤に含まれるフェノール酸エチルエステル(PEE)生成酵素の精製と活性特性の解明(再現性の確認) PEE生成活性を有する市販ペクチナーゼについて,内在する酵素のいずれがPEE生成に関与しているのか不明であった。本年度は市販ペクチナーゼをイオン交換クロマトグラフィーを用いて分画し,PEE生成活性,フェノール酸酒石酸エステル加水分解活性,シンナモイルエステラーゼ(CE)活性とペクチンメチルエステラーゼ(PME)活性を測定した。PME活性測定については前年度の手法から改善を試みた。PME活性以外の3つの活性は,ほぼ同じ画分に認められた。しかしながら,至適pHはPEE生成活性がpH 4.5付近,フェノール酸酒石酸エステル加水分解活性がpH 4.0付近,CE活性がpH 6.0付近と異なることから同一の酵素が関与しているとは断定できなかった。 2.ワイン中における官能評価手法の確立:味強度を経時的に測定するTI法を用いた官能評価試験を行うために,酸味標準溶液およびワインを用いてパネルの育成とTI測定を行った。訓練を終えたパネルから得られたデータでは,pHと酸味の最大強度(Imax)の間に強い負の相関が認められた。すなわちワインのpHが低いほど酸味が強いという結果が得られた。また,酸味強度が最大になるまでの時間(Tmax)はパネル間で誤差が大きかった。これらの結果から,官能評価においてはパネルの充分な訓練と味強度の経時的測定の重要性が示された。
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