研究課題/領域番号 |
25750030
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
小林 奈央樹 日本大学, 生産工学部, 助教 (30453674)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 咀嚼・嚥下 / 数理モデル / 粒度分布 |
研究概要 |
本研究は, ヒトの嚥下過程で形成される食物片と唾液等の凝集物, すなわち食塊について, その力学的特性を主に数理モデルを用いて明らかにする研究である。平成25年度に関しては, 主に食塊形成の数理モデルを提案・構築し, そのモデルに関して数値シミュレーション等を行うことで, 実験で得られた食塊の物性及びその形成過程に関しての知見を得ることを目的とした. そのような目的に基づいて, 本年度の研究を推進した結果, 以下のような研究成果が得られた. 1) ゲル状食品の食塊形成に関して, 平均食片サイズと咀嚼回数との関係を実験的に明らかにした. ゲルは15mmおよび3.5mm角に調理されたものを実験に用いたが, その結果, 15mm角に調理されたゲルの方が, 一定回数の咀嚼後は3.5mm角に調理されたゲルよりも食塊形成しやすい (つまりまとまりやすい) と評価された. 小さく調理されたほうが一見まとまりやすいと考えられるが, それとはパラドキシカルな結果が得られた. この研究成果に関しては, 共同研究者らと共著で日本食品科学工学会誌に論文として投稿・掲載されている. 2) 食塊の凝集性に着目しそれを評価するためのモデルとして, 腫瘍の成長モデルであるイーデンモデルを基に現在モデルを構築し, そのシミュレーションを行っている. 本研究の研究代表者の先行研究で与えられているように, 固体状食品の咀嚼による食片分布は基本的に対数正規分布であることが分かっている. サイズ分布で用いられる分布はその他にも, たとえば正規分布やベき分布のようなものが知られているが, そのような分布の違いが食塊の凝集性にどのように関連するのか, 現在研究中である. これらの成果に関しては次年度以降に, 論文および研究発表により公表される予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は, ヒトの嚥下過程で形成される食物片と唾液等の凝集物, すなわち食塊について, その力学的特性を主に数理モデルを用いて明らかにする研究である. 食品の物性, 被験者属性に基づく咀嚼過程の違いが食塊物性にどのように影響を与えるのか, これらを数理モデルのパラメータとして取り込んで解析を行うことで, 食品の認知から嚥下に至る摂食過程の基礎的な理解を目指す. 平成25年度に関しては, 主に食塊形成の数理モデルを提案・構築し, そのモデルに関して数値シミュレーション等を行うことで, 実験で得られた食塊の物性及びその形成過程に関しての知見を得ることを目的としている. その上で現在の達成度を鑑みると, おおむね順調に進展していると考えられる. その理由としては, 第一に食塊の物性および凝集性に関して, 実験的に研究を推進し, それによる知見が得られたことがある. この研究成果に関しては, 共同研究者らと共著で日本食品科学工学会誌に論文として投稿・掲載されている. 第2に, 目的にある数理モデルに関して, モデルの構築まで研究が進んでいる点である. ただし, この研究成果に関しては, 平成25年度は論文等によりまとめられ, それを公表することが出来ていない点において, 達成度の評価としては当初の計画以上に進んでいるとは言いがたいと考えられる. 以上の理由を考慮して, 上のような達成度の区分を自己評価としてあげたい.
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度に関しては, 平成25年度で得られた成果を基に以下のような研究計画を立てている (交付申請書参照). 1) 先行研究の実験によって得られた実際の食片粒度データを用いて数理モデルをシミュレーションし, 食塊を生成することで, 前年度数値的に解析してきた食塊解析と実データの解析結果とを比較する. 両者を検討することで、実データにおいても粒度分布と食塊特性との関係の解明を目指す. また実データに関しては, その他の実験 (レオメータによる力学測定、直接観察による速度スペクトルの評価, 官能評価) による結果が得られるため, それらと比較することでより総合的な食塊特性の評価が可能になる. 2) 上で述べた数理モデルを個人の食片粒度データに応用し, そこから形成される食塊の特性を調べることは, その個人の咀嚼・嚥下能力の定量的な指標の一つになるのではないかと予想される. そこで何人かの被験者を募集して, 実際に咀嚼実験を行いデータを取得し, 数理モデルでシミュレーションすることにより, 咀嚼・嚥下能力の定量化を目指す. その結果と被験者特性および官能評価等の主観的解析を比較検討することで, 個人の咀嚼・嚥下能力の指標となり得るかどうか議論を行いたい. 本課題の現在の進展状況を踏まえると, 上のような研究計画は十分可能であると考えられる. 2) の実験に関しては被験者等計画の準備・推進に時間がかかることが予想されるので, それを意識した上で研究を推進していきたい.
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次年度の研究費の使用計画 |
研究成果を発表するための旅費としての支出が当初予定よりも少ないことがその主な理由として挙げられる. 平成25年度に使用できなかった助成金に関しては, 平成25年度の研究成果に鑑み, 増加するであろうと予想される旅費として使用をしたいと計画している.
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