研究課題/領域番号 |
25750042
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
谷村 綾子 徳島大学, ヘルスバイオサイエンス研究部, 助教 (10610199)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | アデニンヌクレオチド代謝 / AK2 / CKMT / ミトコンドリア / 血球系分化 / 細網異形成症 / 好中球 / T細胞 |
研究実績の概要 |
細網異形成症(RD)は重症複合型免疫不全症の亜型であり、致死的な感染症を起こす。近年、原因遺伝子として、エネルギー代謝酵素アデニル酸キナーゼ2(AK2)が報告された。AK2はATPとADPを相互変換し、ミトコンドリア膜間におけるATP濃度の恒常性を維持している。しかし、ミトコンドリア膜間ではミトコンドリアクレアチンキナーゼ(CKMT)やヌクレオシド二リン酸キナーゼも同様にATP代謝に関与しており、なぜAK2変異単独でRDを引き起こすのか不明であった。また、リンパ球、好中球、マクロファージ等の免疫細胞は造血幹細胞から分化するが、RDではこのうちTリンパ球と好中球の分化が特異的に障害されており、AK2と細胞特異的分化障害との関連も明らかとなっていなかった。 これまでに、AK2が好中球分化に必須であることを示した。一方で、RDで障害されないマクロファージにおいては分化時にAK2だけでなくCKMT1も発現していることがわかった。それによりRD患者ではAK2欠損によるミトコンドリア膜間でのATP-ADPの濃度バランス異常や、それに伴う酸化ストレスの上昇により好中球分化が障害されると考えられた。 今回、T細胞分化障害の発症機序については明らかとするため、T細胞におけるエネルギー代謝酵素の発現を検討した。ヒトT細胞株Jurkat細胞で、ミトコンドリア膜間エネルギー代謝関連酵素の発現をWBで調べたところ、AK2が優位に発現していることがわかった。このことから、RD患者のT細胞も、好中球同様にミトコンドリア膜間でのヌクレオチドバランスの異常によって分化障害を引き起こす可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度は、1) AK2欠損T細胞・好中球モデル細胞の樹立、2) T細胞株Jurkat細胞を用いた血球系分化機構、および細網異形成症の発症機序の解明、3) 栄養素・薬剤等による治療法の開発 を行う予定であった。1)については、AK2 KD HL-60細胞をすでに利用しているが、新たにAK2 KO HL-60細胞とAK2 KD Jurkat細胞を樹立することにした。Jurkat細胞に関しては、AK2 siRNA をNucleofector II (Lonza)で導入しAK2 KDを行うプロトコールを樹立した。AK2 KO HL-60細胞に関しては、AK2の偽遺伝子を考慮した上で、Zinc finger nucleaseシステムを用いて、KO株を樹立している最中である。作製したKO株は、今後、さらなる好中球分化障害機序の検討や、治療法開発に使用する予定である。 2) においては、ヒトCD4+T細胞株Jurkat細胞でAK2が発現していることを確認した。さらに分化させるときにAK2の欠損が分化障害や機能障害を引き起こすかどうか検討中である。 3) では、AK2やエネルギー代謝関連酵素のプロモーター領域をクローニングし、治療に使用できる候補薬剤・栄養素の検討準備を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、(1) RDでのT細胞分化障害の発症機序解明と、(2) RDの治療法開発についての計画を推進する。 1) T細胞分化方法の確立とAK2欠損による分化障害の確認 … Jurkat細胞を用いた検討で、Jurkat細胞ではミトコンドリア膜間エネルギー代謝関連酵素としてAK2のみが優位に発現していることから、好中球同様、T細胞でもAK2欠損により分化障害や機能障害が起こることが示唆された。そのため、まず、naïveと考えられているJurkat細胞を成熟T細胞へと分化させる方法の確立を行う。そのあと、すでに確立済みのAK2 KD方法によるAK2 KD Jurkat細胞を用いて、その分化割合をNBT assayで測定し、AK2欠損による分化障害を確認する。 2) 食品成分・栄養素での補完酵素の発現誘導によるAK2欠損の改善検討 … 新規治療法を考案するために、AK2遺伝子発現の調節機序を明らかにすることにした。さらに種々の栄養素を含む、薬物によるプロモーター活性の制御能を検索し、治療薬の候補をスクリーニングする系を構築することを計画している。クローニングしたエネルギー代謝関連酵素のプロモーター領域を用い、候補食品成分・薬剤等を用い、Luc assayによりプロモーター活性を調節しうるものをスクリーニングする。選別した有効と思われるものを用いて、AK2 KO HL-60細胞の分化の改善を確認する。
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次年度使用額が生じた理由 |
必要な試薬は全て、ストックを含めて購入済みであり、他に購入したい適当な試薬がなかったため、次年度使用額が生じてしまった。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度分として請求した助成金と合わせて、今後の計画で使用する試薬を購入する予定である。
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