研究実績の概要 |
細網異形成症は好中球とT細胞が欠損した免疫不全症で、その原因遺伝子としてエネルギー代謝関連酵素アデニル酸キナーゼ2(AK2)が明らかになっている。しかし、その発症機序は未だ不明である。従って、本疾患の治療法開発のため、好中球分化障害の病態発症機序の解明を目指した。 まず、モデル細胞としてはAK2ノックダウン(KD)したHL-60細胞を用いた。ノックアウト細胞の作製は、AK2偽遺伝子の存在や血球系細胞ゆえの遺伝子導入効率の低さ・ダメージへの脆弱さのため困難を極めているが、現在も挑戦中である。 好中球分化障害の機序に関しては、これまでにAK2 KD HL-60細胞を好中球分化させるとROSが増加することを見出している(PLoS ONE, 2014)。今年度はAK2欠乏状態での好中球分化時に、ミトコンドリア膜電位が一過的に上昇することを確認した。このことはATP合成や、電子のリークによるROS産生に関与すると考えられるが、病態形成との関連についてはさらなる検討が必要である。また、血球分化時の小胞体ストレスおよびUnfolded protein response(UPR)の役割を検討したところ、分化前のHL-60細胞に存在した小胞体ストレスが好中球分化に伴い減弱することが観察された。UPRに関しては、分化前に発現が強く、分化に伴い発現が減少するものと分化後期に一過性の発現を示すものが観察された。また、各UPRを抑制すると、好中球分化が阻害された。従って、分化中の細胞は小胞体ストレスから分化特異的なUPR経路により保護されており、それが阻害されると分化特異的な障害が起こる可能性が示唆された。よって、細網異形成症ではAK2の欠損によりATP供給が低下し、UPRが障害される可能性が示され、病態形成の一因となり得ることが示唆された。本研究成果は論文作製中であり、また学会発表の予定である。
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