研究課題
食物繊維やその代謝産物である短鎖脂肪酸による大腸がん予防が期待されているが、その分子機序は明らかでない。大腸がんの発症には慢性的な腸管炎症が関与する。申請者は先行研究において、種々の抗酸化酵素や食品由来因子による腸管炎症の抑制を報告してきた。一方で申請者は、短鎖脂肪酸(特にプロピオン酸)がペルオキシゾーム増殖剤応答性受容体alpha(PPARalpha)の発現を上昇させることを見出している。PPARalphaは脂肪細胞の分化や糖代謝といった代謝システムに深く関与する転写因子の一つであり、脂肪細胞や肝臓において高発現している。消化管においてもその発現が確認されており、特に小腸においてはタイトジャンクション構成タンパク質の発現を制御することで腸管透過性を調節していることが近年明らかとなった。しかし、大腸におけるPPARalphaの機能に関しては未だ明らかでない。よって本申請課題では、短鎖脂肪酸が大腸上皮細胞の諸機能(炎症応答、アポトーシス、増殖能、遊走能)に及ぼす影響について、その効果におけるPPARalphaの関与を明らかにし、新たな大腸がん予防食品を見出すことを目的としている。今年度は主に、マウス実験大腸炎モデルを用いて、プロピオン酸の腸炎抑制効果をin vivoで評価した。大腸炎モデルとしては、デキストラン硫酸ナトリウム誘発モデルならびにトリニトロベンゼン誘発モデルを用いた。また、プロピオン酸投与には経口投与ならびに直腸内投与を施行した。しかしながら、いずれの組み合わせにおいても、プロピオン酸の腸炎抑制効果は認められなかった。一方で、マウス大腸上皮細胞株であるYAMC細胞を用いたin vitroの試験において、プロピオン酸によるPPARalphaの発現亢進にはMAPキナーゼのERK経路の活性化が関与することを明らかにした。
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