本研究では,食物アレルギーモデル実験系を用いて,これまでに細胞培養系で明らかにしたカゼイン由来HAQペプチドの抗アレルギー作用,さらに,抗アレルギー作用を持つペプチドの特性を明らかにすることを目的とした。抗アレルギー作用の評価では,卵白リゾチーム(LHE)感作マウスを用いて,14日間のHAQペプチド継続投与による血清中LHE特異IgE及びIgG1,IgG2a,IgA産生,ならびにLHE投与後のアナフィラキシー評価の指標として直腸温と症状のスコア評価を測定した。さらに,感作マウスから脾臓を分離・培養し,抗原刺激下の各種抗体産生,ならびにサイトカイン産生(IL-4,IFN-γ)を検討した。結果、HAQペプチド継続投与における血清中各種抗体産生の低下は認められなかったもののアナフィラキシー症状の抑制傾向が認められ,動物実験系においても抗アレルギー効果を有することが示唆された。また,感作マウス脾臓リンパ球においても各種抗体産生及びサイトカイン産生の低下は認められなかった。これらの結果から,HAQペプチドの継続投与がⅠ型アレルギーに関係する抗体産生を抑制するものではなく,別の作用機序によって抗アレルギー作用を示すのではないかと推測された。そこで,抗アレルギー作用を持つペプチドの特性について検討した。 L-ヒスチジンのみで構成されるイミダゾールペプチド及びペプチドの配列特異性の脱顆粒抑制評価をラット好塩基球様細胞株RBL-2H3を用いて評価した。結果,H,HH,HHH,HAQペプチドをRBL-2H3細胞に作用させたところ,それぞれ濃度依存的に脱顆粒抑制効果が認められ,その抑制強度はHAQ≒HHH>HH>Hであった。また,HAQ,QHA,AQHペプチドで同様に検討したところ,その抑制強度はHAQ>AQH>QHAであった。よって,イミダゾールペプチドによる 脱顆粒抑制効果のレベルはヒスチジン残基の数に依存し,配列特異性も有することが明らかとなった。
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