研究課題
若手研究(B)
本研究はトリプトファン(Trp)摂取によって脳内で増加する内在性神経保護物質キヌレン酸(KYNA)がアルツハイマー病(AD)の病態に及ぼす影響を調べ、新たなADの予防及び治療法の開発に資する科学的基盤の提供を目的としている。KYNAはN-メチル-Dアスパラギン酸レセプター(NMDAR)とα7ニコチン様アセチルコリンレセプター(α7nAChR)のアンタゴニストとして働き、神経保護作用を示す。一方でADによって脳内で増加するアミロイドβペプチド(Aβ)とキノリン酸 (QA)はNMDARとα7nAChRを介して神経細胞毒性作用を示す。これらのことより、KYNAによるAβ及びQAの神経毒性抑制作用をin vitroで調べるための実験を行った。具体的には、マウス初代神経細胞を培養し、そこにQAもしくはAβを添加し、72時間後の神経細胞の生存度を調べる。そのために様々な実験で汎用される細胞の還元力を測定するMTT アッセイを用いたが、織像で明らかな細胞障害を認めていても、MTT アッセイの結果と一致しなかった。これは神経細胞障害によって神経突起等に影響が出ていても神経細胞の還元力に変化が無かったためであると考えられた。いくつかの方法を試した結果、ATPアッセイを用いることで、組織の障害による突起の変化とATPの測定値がほぼ一致した。この方法で求められた神経細胞におけるAβとQAの 50%効果濃度はそれぞれ約5μmol/Lおよび200μmol/Lであった。これによりin vitroでのKYNAによるAβ及びQAの神経毒性抑制作用を検討するための実験系が確立された。本研究は食事によってADを予防、治療する試みである。このことは今後ますます増加する高齢者の健康寿命を延長し、超高齢化社会を迎える日本の医療費の削減に貢献できると考えられ、社会的重要性は高い。
3: やや遅れている
申請者が初めて行う神経細胞の初代培養は論文にも書かれていないノウハウが多くあり(培地交換や試薬添加時の物理刺激に対する脆弱性等)、結果が安定しない原因を追究するために予定よりも多くの時間を費やした。また、神経細胞障害の生化学的指標に関しても本研究に適した方法を複数検証する必要があった。これらのことから、今年度はin vitroでの実験系が確立されたところで、実際の検討実験はこれからであり、研究には若干の遅れが出ている。
現時点まででin vitroでの実験系の確立が終わっているため、今後は予定通りin vitroでの検討実験実験を行い、ADモデルマウス、脳内Aβ投与マウス、およびQA投与マウスを用いたin vivo実験に移行する。
当初の計画ではin vitroの実験を終えてin vivo実験に入る予定であったが、in vitroの実験において実験方法の条件検討に時間がかかり遅れが生じた。そのため実験系は確立したが、その後の検討実験にはまだ着手できておらず、その分経費の支出が少なくなり差額が生じた。今年度はin vitroにおける実験系を構築した。その系を用いてKYNAのAβおよびQAの神経毒性抑制濃度を調べるための実験に必要な、神経細胞培養用培地とキット、妊娠マウス、試薬類等消耗品が必要となるため、その費用を計上する。また、ADモデルマウスにトリプトファン添加食を与えて神経保護作用を観察するin vivo実験に移行するにあたり、ADモデルマウスとトリプトファン添加飼料、バイオマーカー検出用の抗体、及び測定キットが必要となるため、これらの費用を計上する。
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Lipids Health Dis.
巻: 12 ページ: 68-81
10.1186/1476-511X-12-68.