研究課題/領域番号 |
25750068
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研究機関 | 独立行政法人国立長寿医療研究センター |
研究代表者 |
奥野 海良人 独立行政法人国立長寿医療研究センター, ラジオアイソトープ管理室, 特任研究員 (50623980)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | アルツハイマー病 / キヌレン酸 / アミロイドβ / キノリン酸 |
研究実績の概要 |
本研究はトリプトファン(Trp)摂取によって脳内で増加する内在性神経保護物質キヌレン酸(KYNA)がアルツハイマー病(AD)の病態に及ぼす影響を調べ、新たなAD予防および治療法の開発に資する科学的基盤の提供を目的としている。 KYNAは興奮性神経伝達物質のレセプターである、N-メチル-Dアスパラギン酸レセプター(NMDAR)とα7ニコチン様アセチルコリンレセプター(α7nAChR)のアンタゴニストして働く内在性の神経保護物質である。一方、AD患者の脳内で増加するアミロイドβペプチド(Aβ)ならびにキノリン酸(QA)はNMDARおよびα7nAChRを介して神経細胞毒性を示す。以上のことより、AD患者の脳内でKYNAを栄養的に増加させることで神経細胞を保護することができると考えた。 それを調べるためにまず、マウスを用い、KYNAの前駆物質であるTrpを0 - 5%の割合で添加した飼料を摂取させ、どの程度のTrp摂取量まで生体に悪影響無く脳内KYNAを増加させられるか調べた。 その結果、5% Trp添加食では他群に比べ約10%体重が減少し、明らかな健康障害が認められた。2% Trp添加食では体重減少は認められず、脳内KYNAは約2.2倍に増加していた。しかしながらQAは約4.7倍に増加していた。QAはNMDARのみならず、Aβのクリアランスに関連する終末糖化産物受容体(RAGE)に結合することも知られており、アミノ酸栄養がアルツハイマー病に影響を及ぼす可能性を示している。今後QAがこれらの受容体を介して脳神経系に及ぼす影響を慎重に調べる必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の遅れはまだ完全には取り返してはいないが、in vivo試験に入り、ほぼ当初の予定通りの進行状況である。
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今後の研究の推進方策 |
今後は脳内Aβ、およびQA投与マウスや、ADモデルマウス(Tg2576)等の病態モデルマウスを用い、Trp摂取がアルツハイマー病に及ぼす影響について調べていく。
昨年の研究によって5% Trp添加飼料の摂取によって脳内のKYNAは約20倍に増加し、QAは30倍程度に増加していた。当初の仮定とは異なり、Trp摂取は神経保護物質KYNAよりも神経毒QAを優先的に増加させることが分かった。このことはADの発症原因は現在まで完全に明らかにされてはいないが、日々の食生活がAD発症原因の一端となる可能性を示唆する。Trp摂取によって急激に増加する脳内QAの影響を慎重に調べる必要がある。
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次年度使用額が生じた理由 |
2015年3月までにマウスに与えるトリプトファン添加飼料を調製する予定であったが、飼料作成用の機器の納入が間に合わず、飼料を調製することができなかった。よってその分経費の支出が少なくなり、差額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
昨年度の予算は飼料を作成に充て、予定通りin vivoの動物実験に進む。 今年度分の予算で脳内QA投与マウス、脳内Aβ投与マウス、ならびにADモデルマウスを用いた研究を実施する。そのためのマウス、試薬、測定キット等の購入のため費用を計上する。
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