研究課題/領域番号 |
25750071
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
興治 文子 新潟大学, 人文社会・教育科学系, 准教授 (60409050)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 理科教育史 / 明治 / 筆記 / 高等小学校 / 地学 |
研究実績の概要 |
本年度までに,計24都道府県の明治期の児童・生徒の筆記の調査を行うことができた.昨年度までは物理,化学分野の理科筆記を中心に分析を行っていたが,今年度は地学分野の教育に焦点をあて,入手した約300の筆記の中から高等小学校児童の筆記と考えられる9府県27筆記を分析し,その教授内容,実験,教授法などについて検討を行った. 地学という科目は戦後の昭和23(1948)年に成立した.一方で,物理,化学,生物の成立は明治5(1872)年であり,地学は比較的新しい科目である.地学教育の内容は,明治期には理科と地理にまたがって扱われていたため,当時の教育内容を筆記から分析することで,地学が成立するに至った教育実態について手掛かりを得ることを目的とした. 分析した筆記の題目は,「金石」「鉱物」「地理」が主であるが,「理科」などの中にも地学の内容が含まれていた.そこで,筆記の内容を法令と教科書または他の筆記と比較することで教育の実態を探った.具体的には,金石筆記の内容の分析,同一人物の金石筆記と化学筆記の比較,同一人物の理科筆記と博物筆記の比較,地理筆記の内容の分析である. 筆記の分析から,明治期には現在よりも多くの鉱物について教えられていたことが明らかになった.内容が削減された時期については,他の理科の科目と比べて遅く,国民学校の時代であることがわかった。さらに,地理で扱われていた自然現象の原理の説明が時代を経るにつれ増えてきたことや,理科の他の分野間のつながりをもって教えられていたことも判明した.これらのことより,学問の発展とともに自然現象の原理の解明が進み,地理で扱われていた内容が理科で扱われるようになり,昭和23年に理科の1つの分野として「地学」が成立したと推論される.実験・観察の有無や教授法については,これらの筆記から見出すことはできなかった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新たに4つの道県の筆記の有無について確認することができ,筆記に基づいた日本全国の明治期の教育実態を調査する上で多数の資料を得ることができた. また,物理,化学分野を中心に行っていた分析から,地学分野にまで広げ,教授内容や実験・観察の有無,教授方法の手掛かりを得ることができるかどうかについて,検討を行うことができた. 地学分野については,実験・観察を行ったという手掛かりになるような記録を見いだすことはできなかったが,明治期には理科と地理にまたがっていた地学分野の教育が,昭和に入り「地学」という科目として成立するに至った経緯について,筆記にあらわれた教育実態から1つの仮説を得ることができた.それは,自然現象について単に地理的にどのような現象があるのかという事実を述べるだけではなく,法律上は地理で扱うべき内容も,その自然現象の法則性にまで踏み込んだ記述がある場合には,理科として実際には扱っていたということである. 明治19年の「理科」の成立によって,原理原則に基づいた科学教育から質的に変化し,日常的で身近な自然現象を多く扱うようになってきたといわれているが,地学分野については,物理,化学,生物の各分野の教授内容の変遷とは異なる傾向が見いだせたことは興味深い. 当時の高等小学校教師の「理科」についての学問観について,新たな知見を得ることができた.
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今後の研究の推進方策 |
昨年度からの課題である実験・観察に基づいた教授の実態について,日本全国から収集した筆記を基に明らかにする予定である. 具体的な方策としては,今までは高等小学校児童の筆記を中心に分析を行ってきたが,児童を教えていた教師がどのような教育を受けてきたかについて検討することである.師範学校生徒の筆記の分析や,各都道府県あるいは市で出版している教育史での実験講習会や研修会の記録を調査することが考えられる.埼玉県や静岡県では,教員研修の記録や実験室の整備状況についての記録も残されていた.筆記にあらわれた教育実態と,これらの記録を比較することで,実験教育の実態の手掛かりを得られるものと期待している.
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次年度使用額が生じた理由 |
3月末の東京出張の支払いが繰り越しになってしまったため。
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次年度使用額の使用計画 |
3月末までに予算分は執行済みである。
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