本研究は,明治中期の理科教育転換期における教育実態を児童・生徒の授業筆記から明らかにし,日本固有の科学教育が創成された時期の自然観や科学教育観を明確化し,現代へ活かすことを目的として行われた. 初年度は,主として実験教育の実態について明らかにする目的で高等小学校児童の筆記を解析した.特に,埼玉県の筆記からは『小学校生徒用物理書』を基に,原理がわかりやすくなるように教師が工夫をして実験が行っていたと考えられる記述があることが判明した.当時,実験教育が既に普及していたことは,実験書や教科書,実験講習会の実施などで明らかになっていたが,具体的にどのように実験を提示して教えていたのかを解明したことは極めて重要な意味がある. 2年目は,理科と社会にまたがり,まだ科目として成立していなかった地学分野について,教育実態から地球科学に関する自然観などを明らかにした.多数の高等小学校児童の金石,鉱物,地理の授業筆記から,明治期中期から後期にかけて地理に含まれていた地球科学の教授内容は,次第に原理が多く含まれるようになってきたことが判明した.このことにより,教育の実態を反映させる意味でも,地球の表面の自然現象を科学的な視点で理解する学問として,昭和期に地学として成立した可能性についての示唆を得た. 3年目,4年目は,高等小学校児童を教えた教師がどのような教育を受けていたのかについて師範学校生徒の筆記を解析した.3年目の研究からは,複数の舶来教科書が用いられていただけでなく,当時の最新の科学研究の成果が教育内容に取り入れられていることが判明した.さらに4年目は力学分野の力の表記について中心的に解析を行い,現代の理科教育に引き続く生徒の理解の困難さの要因が,明治期の教授内容に既に現れていることが明らかになった.このことは,今後の理科教育改善に向けた大きな手掛かりとなった.
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