研究課題/領域番号 |
25750092
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研究機関 | 広島工業大学 |
研究代表者 |
松本 慎平 広島工業大学, 情報学部, 准教授 (30455183)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | プログラミング / 教育工学 / 学習支援 / アイトラッキング / 項目反応理論 / 機械学習 / 脳波計測 |
研究実績の概要 |
まず,既に昨年度から作成を進めている学習教材について,内容の充実を図ると共に,講義内での実践と基礎データ収集を進めた.教材の充実として,具体的には,1.プログラム記述に間違いが含まれた課題を提示し,間違いの位置を指摘するデバッグ技能を図るためのもの,2.繰り返し回数や処理の順番を適切に並べ替えるもの,3.実行結果の変数値が与えられており,その値を得るために必要な命令を補完するもの,4.完成したプログラムを読解し,処理後の変数の値を推定するもの,の4種類の教材の充実を図った.以上の教材は実際の講義内で利用し授業内容の充実を行いながら学習履歴を電子化しデータベースを構築した.昨年度は紙媒体・マークシート形式での実践であったが,今年度は新たに,C言語の読解学習を対象としたシステムを構築し,上述の問題を提供できるようにした.次に,本システムの有効性を評価するための予備実験を行った.被験者10名に対して,言語仕様を完全に理解していれば解ける知識問題15問,論理的な思考力が問われる論理問題15問の2つのテストをそれぞれ10分の制限時間内で行い,回答ログデータの分析を行った.項目反応マトリクスを出力した後,4母数ロジスティックモデルにより各問題のパラメータを計算した.その結果,ロジスティックモデルの上方漸近パラメータが他の問題と比較して有意に低かった問題を確認した.これは,プログラミングを得意とする学習であってもプログラム理解効率・可読性を妨げている原因であり,プログラミング技能が不十分な学習者に提示すべきでない問題であるとの仮説を得た.他,視線計測実験と解析の予備実験を行った.学習者にはプログラムを読ませ,視線の動きを計測した.その結果,被験者の理解度に応じた視線の特徴を確認した.また,プログラミング読解過程の分析に特化させた視線分析ソフトウェアEye Processorを開発した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究の最終目的は,学習者の生体情報データ(本研究では,脳波・視線データを主とする)を収集し,学習者の理解度に応じた特徴を明らかにすること,明らかにされた知見に基づき,理解度に応じた学習支援機構(問題の見せ方やヒント提示法)を開発することやコンテンツを用意すること,学習者ログに基づく理解度推定機構を開発すること,以上を実現する自学学習環境を構築することである.本年度の取り組みにより,自学学習環境の構築と視線データの収集が達成されたため,おおむね順調であると評価されうる.
まず,利用者の理解度に応じて問題を出題することができ,自学学習環境として利用可能なプログラミング読解学習支援システムを開発した.そして,これを用いてプログラムコードの困難度を項目反応理論により推定した.開発システムにより,学習者のプログラミング技能やプログラムコードの困難度を判定するためのデータの収集を容易とすることができた.本システムを用いた研究室内での実験の結果,プログラム読解が困難な書き方を明らかにし,プログラミング教材を構築する際や教授法を検討する際に参考となり得る知見を得た.他,生体情報,とりわけ視線情報を活用したプログラミング学習支援ソフトウェアを構築するため,視線分析ソフトウェアEye Processorの開発を進めた.プログラミング読解過程の分析に特化させた視線分析ソフトウェアは,安価に入手可能なThe eye tribeに対応したソフトウェアである.り,プログラミング教育現場に本提案の成果を広く普及させることを目的に開発されたものである.Tobii社製X2-30 とThe eye tribeでそれぞれ視線データを取得し,Eye Processorで処理を行うことで,デバイス間性能比較実験を行った.そして,プログラミング読解過程の分析に最適なソフトウェア設定を明らかにした.
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策は,自学学習システムの機能拡充,生体データの収集,理解度に応じた学習支援機構開発である.ひとつに,Webベースのプログラミング学習支援システムの機能拡張である.現在実装されている機能としては,C言語の読解学習を対象としたものであるが,多言語対応させる予定である.また,現在のシステムで生成されるソースコードは意味を持たない命令の羅列であるが,意味解釈に基づいて,何らかの意味のあるソースコード生成も検討している.意味の有無は,コード間の連結を強化学習により学習させることを検討している.システムに追加実装させる機能として,1.最終的な変数の値が示されていて,適切な命令を選択肢から補完する形式,2.命令を適切な順に並べ替える形式,3.ある時点で(たとえばiが5の時),X行目の各変数の値を選択肢から選ぶ形式,4.プログラムにバグが混入しており,正しく実行されるかそうでないかを答える形式,を考えている.加えて,回答の自由入力形式に対応できるようにすることや,プログラム実行後の変数の値が与えられており,正解か不正解か(与えられた変数の値が正しいか否か)を答える形式も有効ではないかと考えている.つぎに,視線データから理解度に応じた特徴をより具体化すると共に,視線及び脳波測定の結果からコードの可読性を定量化したいと考えている.以上知見に基づき多様な学習コンテンツを用意すれば,学習者の学習履歴を集めて項目反応理論で理解度推定後,どのタイプのコンテンツを提示すればよいか決定できるようになる.次に,視線情報のパターン分類の自動化に取り組む.具体的には,「Deep Learningがうまく分類する問題の背景にあるものは何か」を追及する.分類にラベリングを行わず,パターンと認知の関連性を指摘する.この知見から仮説を設定し,適切な視線動作を促せられるよう問題に強調表示機能を加える.
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度3月に電子情報通信学会全国大会の旅費・参加費として予算を計上していたが,大会に不参加となったため,次年度使用額として残額が生じた.大会に不参加であった理由は,計画より研究進行が遅れていたため,システム開発に専念すべきであると判断した結果である.システム開発を進めた結果,研究の遅れを取り戻すことができた.
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次年度使用額の使用計画 |
使用計画として,当初参加を予定しなかったファジィシステムシンポジウムへの参加を行うことにし,このための予算として利用する.また,被験者実験のデータ収集を多く行うことを予定している.よって,次年度使用額は,主として旅費・人件費に活用したいと考えている.
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