研究課題
本研究は、「日本の幹細胞・再生医療研究を巡るメディア言論と政策的議論を巡る関心とフレーミング(問題設定の枠組み)の相互作用(Press/Politics)を明らかとし、生命科学を巡るメディア言論動向の全体像理解に貢献すること」を目指すものである。そのための朝日新聞・読売新聞・毎日新聞という国内における主要新聞社三媒体を対象として、関連記事を20年分およそ7400件収集した。収集した記事について、Leydesdorff and Hellstein (2006)の分析アプローチを踏襲して共語ネットワーク分析を行い、幹細胞・再生医療研究をめぐる報道のフレーミングの変化を検討した。分析に際しては、記事数の変遷と政策的・科学的イベントの発生経緯の関係性をまず分析し、対象期間を4つに区分して比較した。本研究で得られた主たる結果は以下のものとなる。まず第一に、1981年のマウスES細胞樹立、1997年のヒトES細胞樹立、2006年のマウスiPS細胞樹立という科学的なブレークスルーは、日本における関連新聞記事数に影響していないことが明らかとなった。一方で、関係省庁におけるガイドラインの議論開始や、医療応用を強調するヒトiPS細胞樹立など政策的側面・経済的側面・応用的側面にフォーカスが集まった場合に記事数の急速な増加がみられた。第二の大きな成果として、2004~2006年期において「倫理」というキーワードを中心に様々なキーワードとテーマのつながりが展開されていたにも関わらず、2007年以降すなわちヒトiPS細胞樹立を契機として、倫理に関わる話題が周辺化していったことが確認された。このことは、ヒトiPS細胞が科学的に大きな達成であると同時にHypeを引き起こしてしまい、図らずも幹細胞・再生医療研究を巡る倫理的・法的・社会的課題(ELSI)の議論への関心を周辺化してしまったことも含意する。
すべて 2015
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 謝辞記載あり 1件)
East Asian Science, Technology and Society: An International Journal
巻: in press ページ: in press
10.1215/18752160-3326668