本研究は、放射性炭素年代測定と珪藻分析を用いて、縄文時代の生態系史を構築し、遺跡景観を復原することを目的とした。具体的には、採取したボーリングコアや遺跡発掘現場での堆積物の観察と記載に基づく層序の検討を基礎に、放射性炭素年代測定と珪藻分析を行った。 研究対象地は、青森県八戸市域の貝塚群(縄文早期)、群馬県板倉町の貝塚群(早期)、千葉県市川市の雷下遺跡(早期)であり、まず放射性炭素年代測定を集中的に行い、詳細な時間軸を明らかにした。また比較検討のために、日本各地の縄文早~前期の貝塚出土資料の年代測定を同時に進めることで、地域ごとの海洋リザーバー効果を評価することもできた。 青森県八戸市域では、長七谷地貝塚や赤御堂遺跡出土の土器付着炭化物や貝・植物遺体を年代測定し、事例の少なかった赤御堂式土器の年代値と貝塚形成時期を明らかにした。また、ボーリングコア堆積物の年代測定により沖積層層序を検討した。群馬県板倉町では、寺西貝塚の貝と植物遺体の年代測定を行い、奥東京湾最奥部における海洋リザーバー効果を検討できた。他に海洋リザーバー効果を検討した貝塚群は、取掛西貝塚(千葉)、飛ノ台貝塚(千葉)、鳥浜貝塚(福井)、桐ヶ丘遺跡(東京)である。千葉県市川市雷下遺跡では、発掘現場での堆積物の観察により層序対比を進めるとともに、微地形を把握することに努めた。また重要な貝層断面において年代測定を加えた。 このように本研究の意義および重要性は、考古学や地質学、年代学の分野について、野外調査から室内分析までを申請者自身が行い、多分野を結びつける学際研究を目指したことにある。この成果はともに共同研究を進めてきた是川縄文館(青森県)の企画展にて報告される予定である。また、雷下遺跡(千葉県)における共同研究においても、今後総合的に捉えていく予定である。
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