研究課題/領域番号 |
25750108
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研究機関 | 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所 |
研究代表者 |
脇谷 草一郎 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所, 埋蔵文化財センター, 研究員 (80416411)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 装飾古墳 / 保存 / 結露 / 換気 / 断熱性 / 植生 / 墳丘 |
研究実績の概要 |
本研究は大分県日田市に所在する3基の装飾古墳を対象として、その墳丘の被覆状況が石室内の温熱環境、特に結露性状の差異におよぼす影響について検討するものである。これまで、現在墳丘の整備がおこなわれているガランドヤ1号墳を中心に、穴観音古墳、法恩寺山3号墳において墳丘直上の微気象観測と、石室内温熱環境調査、および結露発生について目視観察を実施してきた。 ガランドヤ1号墳では墳丘様の石室保護施設が完成することで、石室内の温度ムラが非常に小さくなることが確認された一方で、石材を中心として石室を構成する材料の熱容量がきわめて大きいため、降雨寺に外気の絶対湿度が上昇すると、石室内において急激に結露が発生することが確認された。石室内空気の換気を実施することは、石室床面土壌から蒸発する水分を排出するとともに、移流による熱の取り込みによって、石材表面温度を上昇させる効果も併せ持つため、換気を停止することが必ずしも好ましいとは考えられず、今後はその制御方法について検討することが必要と考えられる。 穴観音古墳では封土の多くを失っているため、断熱性に乏しい墳丘となっており、季節ごとに石室内の異なる箇所において結露が発生している。すなわち、夏期は玄室側壁、奥壁において、冬期は天井部を中心に、特に前室において多量の結露が発生する。一方、法恩寺山3号墳では比較的墳丘を覆う植生が残るため、結露の頻度、量ともに少ないことが確認されたが、一方で竹の根がマクロな水みちを作り出し、雨水が直接流入する様子が観察された。したがって、墳丘表面の植生は石室内の温熱環境に対して良い効果をもたらす一方で、水みちの形成という負の影響ももたらし得るため、植栽を施す際には、慎重な判断を要すると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
各装飾古墳の環境調査を継続して実施することで、状況の差異が確認された一方で、石室内の環境が常にきわめて高湿度環境であるため、しばしば機器のトラブルが発生し、データの欠測が生じていることが憂慮される点である。また、昨年度はガランドヤ1号墳の整備工事が実施されたこともあり、過渡期の結露性状のモニタリング調査、また竣工後の現在は今後の換気等の環境制御法の検討など、当初の数値解析結果だけではフォローできない状況も確認されている。これらの実測データを慎重に分析しつつ、適切な環境制御法を模索するため、少なからず時間を要すると考えられ、概ね順調であるとした。
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今後の研究の推進方策 |
上述の通り、穴観音古墳と法恩寺山3号墳では一昨年度来実施している実測調査において欠測の期間が生じていることから、同時期の実測データの蓄積を今年度も継続して実施する必要がある。また、ガランドヤ1号墳では竣工後の保護施設内における、結露抑制のための環境の制御方法について、実測データの精緻な解釈と、墳丘土壌および石室内空気における熱水分移動解析に基づく改善策を実施することで検討をおこなっていく。同時に、他の2基の装飾古墳においても、墳丘土壌および石室内空気における熱水分移動解析をおこない、現状を改善し得る方策について検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
現地実測調査の旅費の一部が、受託調査研究費から支出可能となったため、旅費が当初予定額よりも縮小されたことから差額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
石室内温熱環境調査に要する温湿度計の機器トラブルが予想よりも頻発するため、センサ部基盤の交換、あるいは温湿度計自体の更新が必要となっている。それらの消耗品費に充てる予定である。
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