本研究は大分県日田市に位置するガランドヤ1号墳、穴観音古墳、報恩寺山3号墳を対象として、それぞれの墳丘直上の微気象条件と墳丘の状態が石室内の温熱環境、特に結露性状におよぼす影響について検討し、装飾の保存、すなわち石室内の結露発生を抑制する墳丘の条件を検討することを目的とする。 上記の装飾古墳はいずれも墳丘の状況が大きく異なる。穴観音古墳は昭和40年代に直達光と雨を遮蔽するよう墳丘直上のみ屋根を設置している。しかし、その結果封土の含水率は著しく低下して塑性を失って熱容量が減少したばかりでなく、風によって土壌粒子が失われ、石室石材が一部露出した結果、石室内部では外気由来の結露が頻発しており、年周期の石室内温湿度変化は比較的大きな振幅を示した。報恩寺山3号墳は封土が比較的良好な状態で残り、表面を植生によって被覆されているため、日射、降雨に対して一定の遮蔽効果を示した。その結果、年周期の石室内温湿度変化の振幅は最も小さく、結露の発生頻度も穴観音古墳と比較して低いことが明らかとなった。 封土を失い石室が露出した状態のガランドヤ1号墳は、仮設覆屋によって石室周辺地盤への雨水の浸透を断ち、石室内空気と外気間の換気を促進することで石室内の結露発生頻度が大幅に減少した。そこでその成果に基づき日田市によって保存施設の建設がおこなわれた。本研究では、竣工した保護施設内の石室内温熱環境について実測調査をおこない、結露性状について検討するとともに、石室周辺地盤と石室保護施設における熱水分移動解析から結露抑制のための環境制御法について検討した。いずれの検討結果からも外気の湿度が低下した際の換気が結露抑制に効果的であることが示された一方で、保護施設の盛土によって断熱性が向上した結果、夏期における側壁下部の結露のリスクが高いことが示された。この点については引き続き検討し、現場で検証を続ける予定である。
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