これまで、見るということに問題のない聴覚障害者に対する配慮はほとんどなされていなかった。近年のユニバーサルミュージアム研究や実践も、視覚障害者を対象としたものがその大半を占めているように思う。本研究では、聴覚障害者が美術館博物館を鑑賞する際に手助けとなる方法を模索するものである。 聴覚障害をもつ人々が最も強く希望したのは特別なプログラムではなく、「健常者と同じプログラム」であった。継続性という観点にも立ち、本研究では「健常者と同じプログラム」をどのようにアレンジすることで聴覚障害者にとって有用な学びを生むことができるかを検討することとした。 そこで東京国立博物館において実施する鑑賞プログラム(ワークショップ、ギャラリートーク、講演会)をアレンジし、さらに音声認識ソフトなどを導入し、聴覚障害者をモニターにテストを行った。結果、講師の言葉や立ち居地、スタッフの問いかけやフォローなどソフト面での改善も重要であること、見通しを立て、視覚情報を用いたツールの使用が有用であることが確認された。 スタッフ育成研修、館内のバリアフリー環境についても検討し、東京国立博物館の職員のみならず、他施設の担当者にもその方法を開示した。 聴覚障害をはじめとした障害をもつ人々にとっても、あるいは日本語の音声情報を活用することの難しい外国人来館者などを含めたすべてのひとに開かれた博物館のありかたについて考えていく基礎ができた。
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