本研究の目的は、乾燥地の放牧システムにおける樹木の位置づけを明確化し、その採食資源としての重要性、特に干ばつや多雨、寒害といった極端気象イベントの影響を緩和する役割を評価することにある。本研究では、樹木の分布要因、家畜の採食資源としての樹木の重要性、極端気象イベントが発生した際の樹木の役割の変化、の3点を現地調査から具体的に明らかにすることで目的を検討してきた。これまで、条件が異なるナミビアとモンゴルの二地域を比較して、草本を中心に考えられてきた放牧地の植生利用を再考し、レジリアントな放牧システムとはいかなるものかについて展望してきた。 最終年度は、これまでの現地調査結果をまとめる作業を実施した。また、衛星画像解析にもとづく樹木分布図を現地調査結果とあわせて検討することで、目的で設定した極端気象イベントと樹木分布との関連性を具体的に明らかにすることができた。本成果については論文の投稿準備中である。 研究期間全体を通じて、本研究に関わる論文等を合計10報公刊した。また、一般向けの商業誌に2報掲載したこと、児童・生徒や一般向けの講演を複数回実施したことによって、本研究に関わるアジア・アフリカの乾燥地の自然や課題等をひろく社会に紹介した。 今後は本研究の成果をさらに発展させる形で、乾燥地域の放牧システムや樹木の動態についてさらなる解明を目指すとともに、後継研究を展開していく予定である。乾燥地域の環境問題は世界的に重要なテーマであるにも関わらず、日本においては十分に認知されていない。今後の研究においても学術的なインパクトとともに社会還元を常に意識していきたい。
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