研究課題/領域番号 |
25750122
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 北陸先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
小林 重人 北陸先端科学技術大学院大学, 知識科学研究科, 助教 (20610059)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 地域通貨 / フィードバックループ / 制度設計 / 内部ルール / ミクロ・メゾ・マクロ・ループ |
研究概要 |
本研究は,地域通貨の流通におけるポジティブ&ネガティブフィードバックを同定し,地域通貨の流通メカニズムを解明することを目的とする.法定通貨しか使われていない地域と法定通貨と地域通貨が併用されている地域では,経済的なマクロ現象の変化だけではなく,地域住民の貨幣や地域に対する価値観(内部ルール)や売買行動が異なることがわかっている.平成25年度は,擬似的に財やサービスを売買する地域通貨ゲームを開発し,通貨制度の違いが地域住民の内部ルールと売買行動に与える詳細な影響を,ゲーム前後のアンケート分析と行動分析によって調べた.ゲームの前半では法定通貨のみ使用できることとし,後半で地域通貨を導入し2通貨を併用することとした. ゲーミングの結果から次の2点が明らかとなった.1)地域通貨導入前は,価格の安い域外からの購入が多かったが,導入後には入手した地域通貨を使用するために購入先が域外から域内へシフトした.2)有償ボランティアに対する地域通貨による支払いは,ボランティアの回数を増やし,その行為によって参加者の互酬性の規範や地域への愛着といった認知的ソーシャルキャピタルを高めた.さらにその高まりが次のボランティアの実行を誘発した.この場合,地域通貨は直接の要因ではないものの,人と人とを結びつけ,ボランティアの回数を増やすことに間接的に寄与していると考えられる.つまり,地域通貨が経済的活動と非経済的な活動の双方で使用されることにより,住民の認知的ソーシャルキャピタルが高められ,地域内での地域通貨の円滑な循環を手助けしていることが示唆された.これらの結果は,地域通貨の実証研究では明らかとなっていない,地域住民の内部ルールを変えうる地域通貨のメディア的特性(言語的機能)を一部実証するものと考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画では平成25年度で実施するゲーミングを全4回と設定していたが,実際は学生を被験者とした実験を6回実施し,これら以外にも地域通貨を導入したいという地域住民を対象としたゲーミングを2回実施することができた.いずれの実験もゲームにおける行動履歴の収集とゲーム前後でのアンケート調査を実施することができた.また,異なる地域通貨の運用形式による実験も実施することができ,より地域通貨一般の性質に迫る形で被験者の行動と意識変容を観測することができた.これからの成果は,2本の査読付雑誌への投稿(済)と,1本の国際会議へ投稿(済)という形で発表の準備を進めている.さらに,平成26年度に実施を予定しているコンピュータ・シミュレーションにおけるエージェントモデルの作成に十分なデータを確保することができていることからも,その進捗は予定よりも大幅に進んでいると言える.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,内部ルールを持たせたエージェント・モデルを開発し,流通施策の条件を操作変数として地域通貨の流通経路と流通量をコンピュータ・シミュレーションによって観測する予定である.プレミアム率,地域通貨による給料支払割合や有償ボランティアの可否といった流通施策が,地域通貨の流通量や回転数,内部モデルの変化に与える影響を検討する.この分析より,地域通貨の流通や内部モデルに影響するポジティブ・フィードバックとネガティブ・フィードバックそれぞれがどこに存在しどのように働くかを同定し,地域通貨流通メカニズムを導出する. ゲーミング実験で判明した被験者のプレミアムへの感応の低さがなぜ生じるのかを明らかにするために,当初計画には含まれていなかった地域通貨のプレミアムを0にした条件でのゲーミング実験を実施する予定である.この条件を地域通貨が導入されていない地域に居住する住民行動のベースラインとして,現在まで実施してきたゲーミング実験の結果との比較分析を行う予定である.
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次年度の研究費の使用計画 |
ゲーミング実験のために人件費と謝金を計上していたが,他大学(上越教育大学及び小樽商科大学)で行われた計6回の実験は講義の一環として実施されたため,被験者である受講者に謝金を支払う必要がなくなったため. 平成26年度は主にコンピュータ・シミュレーションの実施に注力し,ゲーミング実験を実施しない予定であったが,研究の進捗が順調であるため,平成25年度に実施したゲーミング結果をさらに発展させる実験を今年度に実施することとする.そのための被験者への謝金と実験補助者に対する人件費として助成金を使用する. これまでに多くの研究成果が得られているため,その成果報告を積極的に実施するべく,研究成果報告のための発表回数を計画よりも増やすことを予定しており,そちらにも助成金を使用する.
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