世界の地震ハザード評価,特に海溝型地震の震源のモデル化研究は,東日本大震災を引き起こした2011年東北地方太平洋沖地震(Mw 9.0~9.1)や,2010年チリ・マウレ地震(Mw 8.8)によって転換を迫られている.その理由は,M9クラスの超巨大地震において,M7~M8クラスの海溝型地震ではこれまで確認されていなかった,長周期地震動と短周期地震動の発生場所が明瞭に異なる現象や,地震動の強さがMw 8.4程度で飽和する現象等が,相次いで確認されたためである. 本研究では,これまで手がけた内陸地震と海溝型地震の震源モデル化研究を基に,応力降下量に関する検討を行った.次いで,M6からM9クラスに至る超巨大地震群を対象とし,地震規模に応じた海溝型地震の強震動予測レシピを試作した.海溝型地震の場合,短周期震源は長周期震源に内包されることが多いが,超巨大地震になると短周期震源は長周期震源の端部に位置する事例が見受けられる.また,短周期震源の応力降下量と面積を,長周期震源のそれらのN倍および1/N倍にモデル化することにより,震源パラメータを総和を満足することが可能である. また,2011年東北地方太平洋沖地震や2010年チリ・マウレ地震といった超巨大地震では,地震動の長周期成分と短周期成分の到達時刻の乖離が明瞭であった.その原因は,長周期震源と短周期震源のそれぞれの破壊開始点の位置と時刻の差異を考えられる.短周期震源が,長周期震源の破壊フロントの到達時刻にトリガーされているケースでは,震源のダイナミクスに基づく統一的解釈が示唆される一方,ケース外の事例も見受けられ,多様なシナリオを試行する必要がある.
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