研究実績の概要 |
本研究では、初年度において、胎盤由来細胞株BeWo細胞とマイクロ流路を組合せて胎盤バリア機能を模倣したマイクロ流路デバイスを作製した。作製したデバイスを用いて流体シェアストレスをBeWo細胞に負荷しながら培養すると、構築したバリアにおいてグルコースの透過性向上や微絨毛の誘導が起こることを見出した。そこで最終年度は、流体シェアストレスによる微絨毛誘導のメカニズムついて分子レベルでの解析を行った。 Fura2-AMを用いたカルシウムイメージングを行い、流体シェアストレス負荷前後の細胞内カルシウムイオン濃度の変化を調べたところ、フローによる顕著なカルシウムイオン濃度の上昇を認めた。流体シェアによる微絨毛の形成は、カルシウムキレート剤であるEGTAやBAPTA-AM存在下では著しく阻害されることから、微絨毛の誘導には流体シェアストレス応答性のカルシウムイオンチャネルが関与していると考えられた。胎盤バリアを形成する合胞体栄養膜細胞は、種々のカルシウムイオンチャネルを発現するが、なかでもカルシウムイオンに高い親和性を有するTRPV6(Transient receptor potential, vanilloid family type 6)は、BeWo細胞においても発現が認められた。そこで、siRNAによりTRPV6をノックダウンしたところ、流体シェア応答性の細胞内カルシウムイオン濃度の上昇が有意に抑制され、微絨毛関連因子であるEzrinやEBP-50の発現レベルがそれぞれ、54%、60%にまで低下した。以上の結果から、TRPV6が流体シェアストレスによる微絨毛形成に関与していることが示唆された。本研究で考案したorgan-on-a-chipデバイスにより、胎盤バリアの流体シェアに対する応答性を初めて明らかにし、その分子レベルの一端を突き止めることができた。
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