本研究は、視覚的認識において対象の周辺から影響を受ける脳内メカニズムを、大脳皮質視覚野における情報の流れに注目して明らかにすることを目的とする。中心視野に対応する皮質領域において、対象の周辺からの影響は小さいが、周辺視野に対応する皮質領域において、対象の周辺からの影響が大きい。本研究では、中心視野と周辺視野の機能的差異に注目し、初期視覚野において、それぞれの視野に対応する皮質領域の空間周波数、時間周波数特性を内因性光計測実験から明らかにし、周辺視野において対象の周辺から影響を受けるときの視覚情報の流れを多点記録電極を用いた電気生理実験から明らかにすることを目的とした。 内因性光計測実験より、周辺視野に対応する皮質領域において、嗜好性を持つ空間周波数が中心視野に対応する皮質領域よりも小さいことが示された。さらに、周辺視野に対応する皮質領域の方が、中心視野に対応する皮質領域よりも時間周波数、空間周波数への嗜好性が強く、中心視野と周辺視野の機能的差異が皮質レベルで示された。 周辺視野に対応する皮質領域において、対象の周辺から影響を受けるときの皮質における視覚情報の流れを多点記録電極を用いた電気生理実験から調べた。5×5の記録点を持つ多点記録電極を周辺視野に対応する皮質領域に配置し、神経細胞の活動を記録してスパイク活動の相互相関解析を行い、相互相関の時間的遅延から、皮質における視覚情報の流れを解析した。視覚刺激として、30°×40°のCRTモニタ全面に一様な格子を呈示する全面刺激、中心5°の領域とその周辺に異なる制御下で格子を呈示する中心-周辺刺激を用いた。全面刺激に有意な相互相関値を示さず、中心-周辺刺激に有意な相互相関値を示す細胞ペアが少数であるが見出され、相互相関の時間的遅延から、視覚刺激の中心がその周辺によって補完されるときの視覚情報の流れを示すことが明らかになった。
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