2年度目かつ最終年度に当たる平成26年度は,細胞が高密度にパッキングされた,多様な形状の3次元組織体を作製するための手法の開発を目指した。特に,肝組織や血管組織モデルをターゲットとして,ハイドロゲルによって形成された流路構造に対し,個別の細胞を接着・包埋・あるいは複合化した状態で導入し,さらに潅流培養を行うことで,培養条件が細胞の機能や生存率に与える影響を評価した。アルギン酸あるいはゼラチンによって形成された流路構造を用いた実験系においては,潅流培養の速度が表面に接着させた血管内皮細胞の配向に与える影響を評価したほか,アガロースゲル製の流路構造の内面に細胞を包埋したアルギン酸ゲルを堆積させる実験系においては,特に肉厚な血管様組織の構築において,培養時の酸素分圧が細胞の生存率に大きな影響を与えることを見出した。また,ハイドロゲル製の流路構造以外にも,無機塩を包埋したシリコーン製の流路構造を用いた血管様組織の構築や,積層化ゲルのパターン化による肝細胞共培養系の開発を行った。また,肝癌細胞を微小ハイドロゲルファイバーに包埋し,さらにそのファイバーを束にして流路構造にパッキングして潅流培養を行ったところ,ファイバー表面に接着させた血管内皮細胞の作用によって,ファイバー間に微小な血管様構造が形成されることを見いだし,ボトムアップ手法による潅流培養の有用性を実証することができた。またこのほかにも,非平衡状態の水性2相系が平衡状態へと移行する現象を利用した細胞濃縮手法について,ウェルの材質の濡れ性の違いによる最終形態の変化の違いを観察し,様々な形状を有する単位組織作製の可能性を示すことができた。これらの手法は,高密度な生体組織を再現するアプローチとして有用であると考えられる。
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