生分解性高分子を超薄膜(膜厚100 nm以下)に加工すると、ナノ厚特有の高接着性が発現し、物理吸着のみで濡れた臓器表面に貼付できる。しかし、数cm角のサイズをもつ超薄膜は比較的広い界面である主要臓器には貼り易いが、複雑に入組み蠕動する腸管には貼り難い。特に、炎症を伴う腸管吻合術後、蠕動し互いに接触し合う腸管の癒着をいかに防止できるかが課題である。本研究では、超薄膜の“貼り難さ”を解決する革新的技術「微細に裁断化した超薄膜によるナノパッチワークコーティング」を提案し、腸管に対する新しい癒着防止材に応用することを目的とした。 最終年度は、裁断化超薄膜の癒着防止材としてのin vivo評価を中心に研究を推進した。マウス盲腸をガーゼで擦過、同時に盲腸と接する腹壁をメスにて擦過する盲腸擦過癒着モデルマウスを作製した。1週間後に開腹したところ、盲腸に対して隣接臓器(膵臓・小腸)あるいは腹壁が重度に癒着しており、癒着モデル評価系を再現することに成功した。そこで、擦過した盲腸に裁断化超薄膜によるナノパッチワークを施したところ、癒着は顕著に軽減され,臨床応用されているセプラフィルムとほぼ同値を示した。これは、癒着し得る擦過盲腸表面がナノパッチワークによって物理的に改質され,癒着防止層として機能したためと考えられる。従って、裁断化超薄膜は癒着を軽減できる新規癒着防止材として応用できる可能性を実証した。
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