本年度は新しい肺がんの部分切除デバイス(ステープラ)の試作を中心に行った。新しいステープラに必要な機構要素は以下のように挙げられる。(1)胸腔鏡下手術での使用が可能である、(2)切断面と腫瘍の十分な距離を確保できる、(3)交換不要である、(4)空気漏れしない、(5)組織を把持する、これらの要求仕様に対応する機構を提案手法に組み込んだ。そこで本研究ではペン状である縦型ステープラを提案した。このデバイスには、(A)組織の把持、(B)組織の縫合、(C)組織の切断、(D)新しい針の補充、(E)先端の一定距離移動、と5つの機構が必要となる。本研究ではこれら要素の中で(A)組織の把持、(B)組織の縫合、(D)新しい針の補充に焦点をあて、試作機として作製、評価実験を行った。 一次試作機では針打ちと針補充に関する動作確認を行った。そして、一次試作機により打ち込んだ針の締結力を既存のステープラと定量的に比較した。実験方法としては、布2枚を縫合により固定した後、下の布1枚を固定した状態で上の布を秒速1mmで持ち上げ、そのとき針にかかる力を、フォースゲージを利用して計測した。 針打ちの実験では、針を打ち出す際に大きな摩擦力がかかり、指の力だけでは打ち出せないと分かった。また、組織対応厚としては、一次試作機本体とアンビルの間に薄い組織を数枚重ねて針打ちを行ったとき、1~4mmの組織縫合に成功した。 本年度で開発した試作機は1つの針だけが打ち出される使用だが、今後は6針を切断用刃物の両側に設置して、一般的な手術用ステープラと同様の気密性を持った縫合・切断を目指す。
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