光音響法は,生体にパルスレーザー光を照射して生体内の光吸収体を励起し,励起された光吸収体が発生する超音波(光音響信号)を検出する技術である。励起光として近赤外光を用いた場合,生体表面から10-20 mmまでの深度を観察可能で,特に血液内のヘモグロビンを高コントラストに検出できる。また,血液内のヘモグロビンはその酸素飽和度によって光吸収スペクトルが変化するため,血液の光吸収スペクトルもそれに伴い変化する。本研究では,光音響法を用いて血液の光吸収スペクトルを観測することにより,血液酸素飽和度を計測する技術を開発している。 前年度までに,光ファイババンドルと単素子型センサからなる光音響信号計測装置を開発し,本装置用の光源として波長可変光パラメトリック発振器を適用することにより,多波長での計測を可能とした。さらに,本装置を用いて多波長で計測したデータから,光吸収スペクトルを計算するためのアルゴリズムを開発した。 今年度は,開発した技術を検証するためのファントム実験系,及び動物実験系を構築した。ファントム実験においては,前年度までは黒インクとイントラリピッドからなる生体模擬試料を使用した原理検証を実施していたが,実験動物から採血した血液を対象とした評価実験に移行した。ファントムを対象に光音響信号を観測する前後に血液ガス分析装置を用いてファントム内の血液の酸素飽和度を観測し,対比データとした。動物実験においては,実験動物を人工呼吸管理下に置き,予め確保した採血ルートから採血を行い,血液ガス分析装置を用いて血液の酸素飽和度を観測し,対比データとした。非露出血管を対象に高精度化なデータを得るためには,光減衰のみでなく音響減衰への対策が必要と考えられる。ファントム及び露出血管を対象とした実験において,血液ガス分析と光音響法とで相関するデータが得られた。
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