研究実績の概要 |
協調運動とは方向,時間,力の3要素が適切に調整された運動を指す.本研究では,タッピング運動のアウトカム指標を検討することにより,タッピング運動の臨床における協調運動の質的側面(協調運動3要素)の評価としての有用性を検討した. 研究1:健常成人ボランティア29名を対象に,パデューペグボードテスト(パデュー)とタッピング運動を行い,タッピング運動所要時間とパデュー達成数の相関,また,タッピング運動所要時間と,力・振幅の相関を調べた.結果,パデュー達成数は,タッピング運動の所要時間,力との間に有意な負の相関を認めた(R=-0.42~-0.44, p<0.05).さらに,タッピング運動の所要時間は,タッピング運動の力と振幅,そして,左右の力の差と振幅の差との間に有意な正の相関を認めた(R=0.45~0.62, p<0.05).これらのことから,時間の調整は,タッピング運動の所要時間により測定できる.力の調整は,タッピング運動の所要時間の測定により正常パターンの力の大きさを予測できる.方向の調整は,所要時間とは独立した指標であるため,振幅のばらつきの観察による評価が必要である. 研究2 :補足運動野に腫瘍性病変を認める脳腫瘍患者8名において手術中生じる特徴的な運動症状(協調運動障害)について分析した.術中認めた特徴的な運動症状は,遅発性麻痺,運動開始遅延,動作速度の低下,デュアルタスク遂行困難,上肢と下肢または肘と手指の協調運動障害であった.これら術中認めた症状の内,運動開始の遅延,動作速度の低下,デュアルタスク遂行困難は,協調運動の時間の調整に相当し,タッピング運動により定量的に評価できると考えられる.手術中は,道具を使用した評価は困難であるため,タッピング運動を用いた協調運動評価は有用と考えられた. 結語:臨床における協調運動3要素の評価として,タッピング運動は有用である.
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