本年度は、まず9名の頚椎症性脊髄症症例に対して、Anodal-tDCS(経頭蓋直流電気刺激)の効果を検証するためにsham-tDCS及びCathodal-tDCSとの比較を行った。その結果、自覚的しびれの程度には影響を与えないが、冷覚閾値の低下に寄与することが示された。また、末梢神経感覚刺激(Peripheral Nerve Sensory Stimulation: PSS)と併用した場合に関しても同様に感覚閾値の改善を認めるとともに、握力が増加する傾向を認めたが、併用に伴う明確な即時的効果は認めなかった。一方で、健常人では筋力の一時的な増強効果を認めており、さらなる検証が必要である。これらの成果は国内学会・国際学会にて報告した。 また、頚髄症症例の術後にt-DCS実施群とcontrol群とに分け、効果検証を行ったが、バランス機能(BBS)、下肢筋力、歩行速度などの臨床スコアに明らかな差は認めなかった。術後の介入期間が、両群とも2週間未満と短かったため、より長期的な治療効果の検証が必要である。 さらに、より客観的な治療効果基準判定の一つとして重心動揺検査を本年度よる追加した。その結果、術前から開眼・閉眼ともに重心動揺総軌跡長は健常成人より大きいとともに、閉眼と開眼の比率がCSM症例では大きくなっていた。また、足長に対する踵から重心動揺面積中心部までの距離はCSM症例で大きく、重心制御をより前方部分で行うという質的変化も明らかとなった。 tDCSが疼痛に与える効果も検証課題とし、頸部の関節位置覚との関連性に注目した。CSM症例では術前より頸部位置覚が低下しているが、術後に著しく増悪した症例に軸性疼痛症例が多く認めており、これらは国内学会にて報告した。
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