モノクロタリンの腹腔内投与によって肺高血圧症及び右心不全を誘導したモデル動物を用いて、カヘキシアにおける骨格筋の萎縮メカニズムを確認した。 筋萎縮の進行を遅筋(ヒラメ筋)と速筋(腓腹筋)に分けて確認したところ、カヘキシアを伴う右心不全の時期では、遅筋と速筋の両者において顕著な筋萎縮が生じ、ユビキチン・プロテアソーム系(atrogin-1、MuRF-1 )とオートファジー・ライソソーム系(LC3、p62)によるタンパク分解が亢進していた。一方、右心不全に至る前段階である肺高血圧症の時期では、遅筋と速筋の両者共に、形態的な筋萎縮は確認されなかった。しかし、同時点において、形態的な筋萎縮は存在しないものの、速筋においてのみ、ユビキチン・プロテアソーム系とオートファジー・ライソソーム系によるタンパク分解が既に開始されていた。これらのタンパク分解系の亢進は、病期の進行に伴う食事摂取量の減少や動脈血酸素飽和度の低下が出現する前から生じており、栄養摂取や低酸素による影響とは別の機序が予想される。 本研究の結果より、骨格筋の形態的な萎縮は心不全と同時期に生じるが、タンパク分解経路の亢進は心不全に先行することが確認された。また、遅筋は速筋に比べてタンパク分解に対する耐性が高いことも確認された。このことより、心不全に伴う骨格筋の萎縮に介入する上で、筋萎縮が出現する前段階からの予防的な介入の必要性、及び対象筋を選択する重要性が明らかになった。
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