研究実績の概要 |
AMPA受容体を介した興奮性神経伝達は、記憶・学習などの高次脳機能に関与することが知られている。運動野においては、運動学習後に長期にわたりシナプス伝達効率が上昇するLTP(Long term potentiation)が報告されている(Science, 2000)が、そのメカニズムはよく分かっていない。この点を明らかにするために、本研究では、AMPA受容体に着目し、スライスパッチクランプ法を用いてラット(4週齢)一次運動野II/III層のニューロン活動を記録した。運動学習課題としてローターロッドテスト(1日10試行)を行い、完全に学習が成立した運動2日後、電気生理学的特性の変化を調べ、非学習群と比較した。電流固定法による膜電位測定を行ったところ、学習後には、静止膜電位および活動電位の発火頻度が上昇することが分かった。また電位固定下(-60mV)でM2からの入力線維を電気刺激すると、刺激によって誘発されたAMPA電流は増加し、特に運動1日目にはAMPA/NMDA比の有意な上昇(1.48倍)が観察された。運動2日後には、微小興奮性シナプス後電流(mEPSC)の振幅・頻度は非学習群と比較して有意に上昇した。さらに連続刺激応答の結果(paired pulse ratio)より、シナプス前終末側のグルタミン酸放出確率の増加が確認された。以上より、運動学習成立において、プレ・ポストシナプス両側で学習段階に応じたダイナミックな可塑的変化が起こることが判明した。
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