巧みな随意運動は筋の収縮と弛緩が滑らかに繰り返されることで成り立っている。中枢神経系の障害では、筋緊張の亢進に伴い円滑に筋を弛緩できないという症状が起こりうる。しかしながら、筋収縮に比べて筋弛緩に関する研究は少なく、そのメカニズムは未だに明らかにされていない。 前回の研究において筋弛緩直前に一次運動野が一時的に促通されることを報告した。一次運動野興奮性は抑制性介在ニューロンによって修飾されることが報告されている。そこで経頭蓋磁気刺激のpaired-pulse(二重連発刺激)法を用いて筋弛緩前の一次運動野興奮性に及ぼす短潜時皮質内抑制の影響を調べた。 短潜時皮質内抑制は、筋弛緩反応前80-100msの区間で減少した。単発刺激によって計測された運動誘発電位において、60-80msの区間は他の区間に比べて有意に大きな運動誘発電位が生じた。加えて、経頭蓋磁気刺激は筋弛緩反応を遅延させる効果を示さなかった。 これらの結果は、筋弛緩反応前初期の皮質活動が筋弛緩制御において重要な役割をすることを示している。筋弛緩反応中あるいは反応後に筋弛緩を維持するために、短潜時皮質内抑制回路の活動は、減少から増加に転じる可能性が考えられた。一次運動野興奮性のダイナミクスと関連して、短潜時皮質内抑制動態も筋弛緩制御を通してダイナミックに変化することが示唆された。 本研究は筋弛緩制御がアクティブであることを確証しており、筋弛緩直前にM1を促通させる治療介入が筋弛緩を助長し、円滑な運動制御を導きうることを示唆している。
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