本研究課題では、実験動物を用いて物理的手段が関節拘縮の予防に及ぼす影響を解明することと、徒手的治療法と物理療法の併用効果を明らかにすることを目的としている。 平成27年度は、拘縮を生じた関節に対して持続的他動運動(CPM)を実施し、可動域の変化と関節構成体の病理組織学的変化を検討した。その結果、自然治癒の群では軟骨の菲薄化や軟骨表面の不整が認められたが、CPMを行った群では両者とも改善傾向であった。これらから、非荷重位で関節運動を行うことにより関節構成体に適度な機械的刺激を与えられ、軟骨の組織学的な改善を生じたものと推察される。次いで、拘縮の予防を目的として不動期間中にCPMを実施し、可動域の変化と関節構成体の病理組織学的変化を検討した。その結果、不動期間中にCPMを行った群は固定のみの群と比較して可動域制限や関節構成体の病的変化が軽微であった。これらから、拘縮による関節構成体の変化として軟骨代謝の低下、滑膜脂肪細胞の萎縮と線維増生が生じるが、CPMによる適度な機械的刺激が関節構成体の器質的変化を軽減できることが示唆された。 これまでの研究成果を概括すると、不動化によって生じた拘縮は自然治癒で可動性の改善はみられるものの、組織学的な改善は認められないことが明らかとなった。拘縮による組織学的な変化を改善する方法として、温熱療法よりも寒冷療法の方が関節構成体の組織学的な改善が期待でき、物理的手段の併用は軟骨の菲薄化や癒着などの器質的変化の改善に貢献していると考えられる。拘縮の予防については、不動期間中に温熱療法や寒冷療法を実施しても可動域制限の予防は困難であるが、寒冷療法を行うことで軟骨の器質的改善が認められる。また、物理的刺激は滑液循環や軟骨代謝の改善に寄与し、拘縮による関節構成体の器質的変化を軽減できることが示唆された。
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