最終年度は、A型ボツリヌス毒素による痙縮治療例における効果を歩行分析によって明らかにし、歩行中の痙縮の定量的評価法を作成する計画であった。昨年度までに、歩行分析から得られた結果から作成を試みた指標は、足内反(昨年度の報告まで内反尖足としていたが,定義上,足内反が妥当であるため変更した)、膝のこわばり、足クローヌスであったが、研究対象で多くみられた臨床症状を考慮し、足内外反角度と肘屈伸角度を採用した。 対象は、痙縮による足内反あるいは肘屈曲を呈し、歩行中に症状増悪し、ボツリヌス治療の適応がある片麻痺患者とした。注射の対象筋は、下腿の後脛骨筋、腓腹筋、ヒラメ筋、上肢の上腕二頭筋、上腕筋、大胸筋などとした。評価は、安静時のmodified Ashworth scale(MAS)、下肢筋力、平地歩行速度、三次元トレッドミル歩行分析を、注射前、注射から2週後、6週後、12週後に行った。歩行分析から得られたデータより、足内外反角度と肘屈伸角度を算出した。 足内反を呈する28例は、注射後、MASと歩行中の足内反角度、歩行速度は改善し、ボツリヌス治療の有効性が確認できた。MASは12週後に注射直前の値に戻ったが、遊脚期の最大足内反角度は12週後も有意に減少していた。肘屈曲を呈する14例は、肘屈筋群のMASは2週後に有意差はなかったが、歩行中の最大肘屈曲角度は有意に減少していた。歩行中の痙縮による肘屈曲に対するボツリヌス治療も有効であることが確認できた。 痙縮は、安静時と動作時で常時同一症状ではないため、ボツリヌス治療の効果判定には安静時の評価に加えて、歩行中の評価が必要であった。本研究の結果から、足内外反角度と肘屈伸角度が歩行中の痙縮の定量的評価指標として有用である可能性が示唆された。今後は痙縮による他の異常歩行パターンの解析や注射の適応(筋,量)が明らかとなる評価法を開発していきたい。
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