研究課題/領域番号 |
25750237
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 愛知医科大学 |
研究代表者 |
大道 裕介 愛知医科大学, 医学部, 助教 (50506673)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 慢性痛 / 不活動 / グリア細胞 / 活性酸素 / 運動器 / ギプス固定 |
研究概要 |
平成25年度は“脊髄グリア細胞の活性化拡大における情報伝達機序の解析”を課題として種々の実験を進めてきた.ギプス除去1日後に,ギプス固定側DRG神経細胞体および衛星細胞において,pERKならびにpp38免疫応答細胞数の増大が確認され,その一部はsubstance P陽性細胞との共発現が認められた.一方でATF3免疫応答細胞の発現は認められず,ギプス固定による神経障害は否定的であることが示唆された.また脊髄ではギプス除去2時間後,1日後とリン酸化nNOSが発現上昇し,3日後,1週間後と鎮静化していくことが捉えられた.ギプス除去直前に活性酸素除去剤Tempolを腹腔内投与すると,ギプス除去後の機械痛覚過敏行動は有意に抑制された.またギプス除去2時間後に生じる固定側後肢における血漿管外漏出の増大は,Tempolの容量依存性に抑制された.またTempol投与群ではvehicle投与群に比べ,ギプス除去1日後に,第4腰髄後角で,c-fos免疫応答細胞数の減少,またOX42免疫応答面積の減少が確認された.さらにTempol投与群では,ギプス除去5週後の第4腰髄後角において,アストロサイト(GFAP)の免疫応答面積が無処置群レベルまで有意に減少した.以上から,ギプス固定肢において,ギプス除去後に,酸化ストレスが増大し,この酸化ストレスが末梢痛覚受容器を興奮させ,脊髄二次ニューロンにおいて痛覚増強を誘導する可能性が示唆された.また,こうした末梢性シグナルが脊髄ミクログリアの活性化を引き起こし,慢性化に従い多分節に広がることやアストロサイトの活性化へ転移する可能性が示唆された.慢性広範囲痛の発現機序の一つとして脊髄グリア細胞の活性化とその拡大が関与することが推測された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ギプス固定後慢性痛モデルを用い,第3-5腰髄について,ギプス固定前,ギプス固定最終日,除去2時間後,1日後,3日後,1週間後まで,ウエスタンブロッティング法にて,各種MAPK(pERK,pp38, pJNK)について,タンパクの発現変動を経時的に調査してきたが,これまでのところ当方のプロトコルでは,その変動を捉えられていない.そのため,MAPK抑制剤を用いた薬理行動学的検討の実施に至っていない.一方で,ギプス除去後に,DRGにおいて,リン酸化MAPKタンパクや,脊髄におけるリン酸化nNOS,c-fosの発現を新たに捉えることができた.また活性酸素除去剤Tempolを用いた検討から,血漿管外漏出が末梢の酸化ストレスを反映する現象である可能性や,活性酸素が末梢性痛覚増強に大きく関与し,この末梢シグナルが脊髄グリア細胞活性化の誘導に関与することが明らかとなりつつある.この成果は,結果として,次年度(平成26年度)の課題である慢性広範囲痛の末梢要因の検証を一部先行させることに繋がった.さらに,予想外に大脳レベルでの変化を見いだすことができた.こうした新たな発見によって研究計画の進捗に一部変更を生じたことから,当初予定していたプロテインアレイによる腰髄発現タンパク群の網羅的解析は一次中断することとなった.
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今後の研究の推進方策 |
末梢組織の中でもとくに理学療法の治療標的となる骨格筋,筋膜,関節,皮膚,結合組織といった軟部組織において広範囲慢性痛の末梢誘発因子を探索する.探索にあたり,ギプス固定除去後の血漿成分の血管外漏出(神経因性炎症)の局在についてエバンスブルー(EBD)を用いてマッピングを行い,その局在を指標に,末梢誘因探索のターゲット組織を決定する.つぎにターゲット組織において,DNA/RNA ダメージ,タンパク質酸化,脂質過酸化ダメージ,ROS&抗酸化物質アッセイを指標として酸化ストレスの局在と量的変化について調査する.またケモカイン(CCL20),サイトカイン(IL-6,IL-1β,TNFα)など増殖因子各種,神経ペプチド(CGRP,Substance P)や神経栄養因子(NGF,BDNF),これらのレセプター(Nk1,TrkA/B)の発現などについて,特異抗体による免疫染色法を用いて,これらの分子の局在を調べ,ウエスタンブロッティングやELISAにて量的存在を,また PCR にてメッセージレベルでの量的発現を調べる.加えて,活性酸素レセプターであるTRPM2の発現変化についても検証を進めて行く.あたらしく発見された脊髄におけるリン酸化nNOSの発現を手がかりとして,本実験モデルに特異的な,神経障害性疼痛モデルとは異なる新たなsynaptic efficacyの変動メカニズムを検証する.
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次年度の研究費の使用計画 |
新しく発見された変化について検証を進めていくことへ方向変換し,当初予定していた高額な支出を要するプロテインアレイによる腰髄の網羅的解析を一次中断したことが,次年度使用額が生じた大きな理由である. 高額支出を要するプロテインアレイ解析を本年に実施する.網羅的解析にともなう長大なデータ解析に要する膨大な時間を削減するため,とくに酸化ストレス関連タンパク群に着目した解析を実施する. DNAアレイ解析への変更も視野に入れており,こちらの場合も酸化ストレス関連遺伝子群の解析に焦点を絞って行っていく予定である
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