固定側後肢の脱灰標本を作製し,骨から皮膚に至る下腿全域の横断切片を作成することに成功した.経時的に,無処理,ギプス固定2週目,固定除去後2時間,1日,3日,1週,3週,5週の計8つの時点で標本を採集し,ヘマトキシリン・エオシン染色し,固定部後肢の組織病理所見を検索した.ギプス除去2時間後から1日後にかけて,筋の間質や皮下にリンパ球やMacrophageの浸潤の増大が認められたが,再潅流障害の大きな特徴である再還流域の広範囲に生じる壊死像は認められなかった.よって,当初の予測に反して,ギプス固定除去によって虚血再潅流障害が生じる可能性は低いことが示唆された.一方,同標本で抗8OHdG抗体を用い酸化障害の評価を行ったところ,ギプス固定中から8OHdGの免疫応答の増大が皮膚,筋,筋紡錘,神経,血管内皮などの全域に出現し,ギプス除去後1日にかけて漸増した.後肢の不動化とその開放によって固定肢に酸化障害が生じることが示唆された.さらに酸化障害が漸増するギプス除去に先だって,活性酸素スカベンジャーのTempolを投与したところ,ギプス除去2時間後をピークとして生じる固定肢のEvans blue Dyeの漏出は,有意に抑制された.さらにギプス除去後の慢性期(除去後5週)に生じる腰髄アストロサイトの活性化は,Tempol投与により抑制された.これらのことから,固定肢に生じる酸化障害は,神経性炎症を誘発し,慢性的な広範囲機械痛覚増強の誘導する可能性が示唆された.また,末梢組織の酸化障害がピークとなるギプス除去後1日目において,第3,4,5腰髄後角で増大するIba1の免疫応答に対し,後角1-2層の領域でpp38の免疫応答の増大が共局在を示した.固定肢の酸化障害とそれにつづく神経原性炎症による感覚入力の増大は,脊髄ミクログリアの活性化に関与している可能性が示唆された.
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