我が国では高齢化に伴い,高齢者の歩行能力を維持する事が重要視されている.高齢者の歩行動作の特徴として歩幅の低下や筋活動時間の増加といった歩容が挙げられる.これらの歩容を示す原因として歩行の安定性低下が挙げられる.本研究では歩行の安定性向上に上肢の振り出し動作が重要であると考え,高齢者の上肢振り出し動作を増大させる歩行訓練手法を提案する.高齢者と若年者の上肢の振り出し動作を比較すると,上肢を振り出すタイミングは変化しないが,肩を水平面回りに回旋させるタイミングが変化する.そのため,肩の回旋動作と上腕の振り出し動作の位相差が上肢を振り出す量に影響すると仮説を立てた.仮説の検証の為,肩の位相を任意に変化させる事を可能とするマニピュレータを開発した.本マニピュレータは使用者の踵接地のタイミングを取得し,踵接地時の肩の回旋角度を制御する事が可能となっている.本システムを用いて,若年健常者2名を対象とした検証実験を行った.実験の結果,被験者2名において肩と上腕の位相差が0~20[°]となる際に上肢の振り出し量が有意に増大する事が示された.本研究により,高齢者に対して肩と上腕の位相差を変化させる訓練を行う事で,上肢の振り出し量が増大する可能性が示唆された.
|