研究課題/領域番号 |
25750265
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研究機関 | 高知工科大学 |
研究代表者 |
谷部 好子 高知工科大学, 公私立大学の部局等, 研究員 (30582829)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 時間知覚 / 眼球運動 / 身体運動 / Sense of Agency / Causality / Go/No-go / Intentional binding |
研究実績の概要 |
従来、運動と感覚イベントとの時間的結合は「自発的身体運動が感覚イベントを誘発する」枠組みで研究されてきた。本研究ではこれとは逆の枠組み、即ち、「感覚イベントによって自動的な運動が誘発される」状況においては、そうでない場合より感覚イベントが約60ミリ秒遅いタイミングとして知覚されることを明らかにした。当該年度(平成26年度)にはこの現象について心理実験を重ね、学会(3回)および(国際誌1報)にて報告した。 ◆心理物理実験:実験ではコンピュータスクリーン上に、ランダムなタイミングで黒から緑か赤に変化する時計が表示された。実験参加者は、時計が緑に変化した場合には素早く視線を動かし、赤に変化した場合には視線の移動をキャンセルした。統制条件では時計を単純に注視した。刺激提示後、被験者は色の変化時に時計の針がどこにあったかを回答した。その結果、視線の移動の有無に関わらず、運動をせず単純に観察するだけの場合(統制条件)より色の変化が約60ミリ秒遅く知覚された。本現象は視線の代わりに手を動かした場合にも観察された。さらに、2種の色の変化ではなく2種の聴覚刺激を用いた実験でも同様の結果が得られた。 ◆脳波測定:倫理審査の遅延のため本実験の開始が遅れている。 ◆他:議論を厳密に進めるため哲学者との共同研究を開始した。 《本研究の意義》本研究により、身体運動を準備する脳活動が時間知覚に関与することが示唆された。従来、身体運動により誘発された音は身体運動のタイミングに接近して知覚される現象が知られており、主体性感覚が時間知覚を変調すると説明されてきた。本研究は1.この接近が主体性の及ばない運動前のイベントにも生じること、2.この接近が自動的に素早く実行する運動でも生じることを示唆する。今後、統合失調症を始め主体性感覚に異常の生じる疾患の病状把握への応用を期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
(1)脳波実験の遅れについて 倫理審査の遅延のため脳波実験の開始が遅れている。実験方法や解析プログラムはほぼ構築済みであり、審査合格とともに速やかに本実験を開始する予定である。 (2)身体運動実験の延長について 視線の代わりに手を動かした場合の実験に関し、当初は先行研究に習いキー押下→解放というタスクで実験を実施していたが、眼球運動タスクでの結果に比較しタイミング知覚の遅延幅が半分程度であった。そこで、光学センサーで手の運動タイミングを高精度に感知する自家製デバイスをキーボードの代わりに用いたところ、遅延幅が眼球運動実験と同様のサイズになった。この検証のため実験が遅れたものの、身体運動に伴う感覚フィードバックの統制の必要性が明らかになった。
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今後の研究の推進方策 |
27年度前半、現在までの達成度に記述した「(2)心理物理実験の遅れについて」に関連し、感覚イベント-運動-感覚イベントというシーケンスでのタイミング知覚を測定する心理物理実験を実施する。倫理申請が通過し次第、脳波実験を実施する。 27年度後半、運動意図及び主体性感覚に障碍のある疾患(パーキンソン病・統合失調症など)の患者で心理物理実験を実施する。パーキンソン病患者については MRI により striatum の画像を得、行動データと比較する。
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次年度使用額が生じた理由 |
神経科学的測定について脳波測定を優先し MRI 測定を実施しなかったため、 MRI 使用料(1実験あたり9万円)が年度内に発生しなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
主な支出は下記である。 ・国際会議参加:30万円(ASSC2015、パリ、7月)・研究会参加:5万円(LOVE、ナイアガラフォールス・2月)・論文投稿/公刊料(20万円)・MRI 使用料(45万円)
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