我が国の体育学領域には、「体育とはなにか」という根深い問いがある。本研究の目的は、この問いを巡る一連の議論を分析・整理することによって、暗黙的にであれ、それらに通底する思想的な基盤を浮き彫りにすることにある。 最初に、現代を代表する体育論として佐藤臣彦著『身体教育を哲学する』に着目し、その論理を内在的に分析するとともに、これを方法論的に援用することのあり方について問題提起した。また、同著作を方法論とする議論の事例として、友添秀則著『体育の人間形成論』を採り上げ、佐藤の論理と友添固有の論理との接続のあり方についての分析を行うとともに、後者における論理展開に一定の不首尾を指摘した。 さらに、平成27年3月現在投稿中の論文において、戦後以降の代表的な議論を網羅的に鳥瞰し、それぞれの「体育」の定義に関して、その正当性を支える根拠について整理、類型化した。これによって、現代の体育論には共通してある種の研究上の盲点があることを明らかにした。 体育の自己同一性に関しては、これまでに様々な議論が提出されているが、原著論文などのかたちでまとめられた本研究の成果は、今後「体育」の用語的な意義を遡及的に追求するための最初の礎石となるだろう。
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