本研究は、フィリピン農村地域において、若者のスポーツ参与(ボクシングの事例)によって引き起こされる社会移動のありようを実証的に明らかにするものである。第三世界のアスリートの元来の生活根拠が都市ではなく農村にあることは、本研究の事例地であるフィリピンの他にアフリカ各地の研究でも指摘されきた。しかしながら、その実態調査は、世界的に見ても、ほとんど手つかずの状態にある。本研究は、この研究の空白地帯を埋める作業として位置づくものであった。 本年度は、前二年間の調査データを再整理した上で、引退ボクサーへの聞き取り調査を実施した。これまでの調査を通じて、フィリピン農村から都市部へのスポーツキャリアを通じた移動のパターンを捉えることができていた。その過程でわかったことは、フィリピン国内の都市部(マニラ、セブ)のみならず、かれらの何人かが日本や韓国や中国など、アジア圏の大都市へと移動する経路が存在することである。よって、最終年度である本年度は、この興味深い論点に着目し、どのようにフィリピン農村から都市へ、さらには国際移動へと展開するのか、その経路に関する聞き取り調査と機関調査を実施した。またそうしたボクサーたちの出稼ぎが、どのように出身農村に影響を与えるのかを、経済的・文化的・社会関係的側面から考察をおこなった。 以上の研究内容の一端については、石岡丈昇「ボクサーと言葉」『atプラス2016年5月号』に執筆したほか、2016年に刊行される『フィリピンを知るための63章』(明石書店)の「スポーツーボクシングが切り拓く社会象徴的時空」という章でも論じた。2016年度国際スポーツ社会学会(ハンガリー・ブダペスト)での研究発表がアブストラクト受諾の上で確定しており国際的にも成果を上梓することになっている
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