競泳においてバックプレート付スタート台を対象とした競技力向上を目的として行った研究はほとんど行われていない.また先行研究のほとんどの被験者が大学男子競泳選手であり,大学女子競泳選手やジュニア期を対象とした研究は行われていないのが現状である. 尾関ら(2014)は大学生以上の男子および女子競泳選手において新しいスタート台を用いたキックスタートを用いることの優位性を報告した.また,尾関ら(2015)は女子一流競泳短距離選手のキックスタートの特徴として,高い跳び出し水平速度の獲得よりもブロックタイムを短縮するためにスタート姿勢の身体重心位置を前方向にして構えていることを報告した.この尾関ら(2015)の報告は男子競泳選手を対象とした多くの先行研究の報告とは異なることから,女子競泳選手では競技力向上のための最適なスタート方法が男子競泳選手とは異なる可能性を示唆した. 水藤ら(2015)は性差によって生じると考えられる脚筋力に着目し,大学男子競泳選手および大学女子競泳選手を対象として検討した結果,大学男子競泳選手においてはスタート構え時の前方向の脚における等尺性最大脚筋力が大きいほど,跳び出し水平速度が高く,5m通過時間が有意に短かったことを報告したが,大学女子競泳選手においてはスタート構え時の前後脚を変えた場合においても5m通過時間は有意に長くなるものの,15m通過時間には有意な差が認められなかったことを報告しており,性差によって生じる体力特性のひとつである脚筋力の違いにより最適なスタート方法が異なる可能性を報告した. 尾関ら(2016)は競泳スタート時におけるスタート台に作用する力を手部,足部それぞれ独立して測定し,評価する方法を確立した.この測定方法の確立により,足部だけでなく手部が跳び出し水平速度に貢献していること,手部の鉛直方向の力に左右差が生じていることを明らかにした.
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