ヒトは他者の運動を見る時、あたかも自分が動いているかのように脳内で運動をイメージすることができる。我々は、熟練者が手や足など特定の部位の動きのみから全身の運動を正確に想起できることを確認している。このことから、熟練者はミラーシステムを介した欠損部分の補完により運動の認知精度を高めていることが推察されるが、その詳細は明らかになっていない。そこで本研究の目的は、第1実験として運動認知に貢献する身体部位を特定し、次に第2実験として運動観察中の熟練者と初級者の運動野の興奮性を比較することで、ミラーシステムを介した運動認知の補完メカニズムの解明を目指した。 その結果、第1実験により体操競技の熟練性が関係する運動(側方倒立回転)においては、運動の識別に熟達差がみられ、熟練者は初級者よりも運動の識別が高いことを示した。また、部位別による運動の識別では、「肩と膝」の点にマーカーを置いた場合において運動の識別が高いことを示した。さらに、体操競技の熟練性が関係しない運動(跳躍)においては熟達差がみられず、「肩と膝」の点にマーカーを置いた場合において運動の識別が高いことを示した。次に、第2実験ではTMSを用いて運動観察中の運動野の興奮性を測定した。その結果、「肩と膝」の点にマーカーを置いた場合に運動野の興奮性が高まることが示され、その他の部位では有意な差が認められなかった。 このことから、運動を認知する際に貢献する身体部位として「肩と膝」があげられ、これらの部位は、呈示する運動の種類に関わらず2点という極めて少ない光点条件においても運動の全体像がイメージしやすいため、映像を観察した場合において運動野の興奮性を高く示したことが考えられる。
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