乳酸がミトコンドリアの新生のメカニズムを明らかにするために、培養細胞を用いて検証した。昨年度、マウス骨格筋由来のC2C12細胞に対して、2Hzの3ms、50Vの電気刺激をおこなった結果、細胞内の乳酸濃度は刺激前に比べて有意に増加したことを明らかにした。本年度は、グリコーゲン濃度、シグナル分子のリン酸化、ミトコンドリア新生を示すmRNA発現量を検討した。細胞内グリコーゲン濃度を測定したところ、細胞内のグリコーゲン濃度が低下していた。このことから、筋収縮によって糖の利用、分解が促進され、乳酸が多く産生されたと考えられる。そのときに、p38 MAP kinase (p38)、Acetyl-CoA carboxylase (ACC)のリン酸化が有意に増加した。このことから、ミトコンドリアの新生を誘導するシグナル経路であるp38経路やAMPK経路が、乳酸の増加とともに活性化されることが明らかとなった。しかしながら、このときのミトコンドリアの新生をクエン酸合成酵素やCytochrome c oxidase 4 (COX4)のmRNA発現量は増加しなかった。 以上の結果から、乳酸とミトコンドリアの新生の上流のシグナル分子の活性化と関連があることが明らかとなった。応用的にはinvivoにおいて乳酸摂取や血流制限などを用いて、体内の乳酸濃度を増加させることが、ミトコンドリアの新生を引き起こす可能性が考えられる。しかしながら一方で、本研究においては細胞内で乳酸濃度が増加しても、ミトコンドリア自体のmRNA量の増加はみられなかった。このことから、乳酸刺激の時間の長さや強度、回数などがミトコンドリア新生と関連する可能性が考えられる。
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