日常的な自発運動量が少ないことは、様々な健康阻害因子と同様に健康寿命を短縮させるリスクファクターである。そのため、日常的な自発運動量の増加や運動習慣の形成は心身の健康増進のキーポイントである。 我々は、この問題を解消するための生物学的基盤を作成することを目指し、ラットモデルを用いた実験的検討を行ってきた。ラットなどのげっ歯類をランニングホイールのついた自発運動可能な環境で飼育するとその走行量に大きな個体差が認められる。我々は、子の個体差を基に、日常的な自発運動量の異なる動物モデルをスクリーニングし、自発運動量を規定する脳内因子を探索した。 その結果、日常的な自発運動量の多い高活動ラットにおいては、低活動ラットと比較して、脳内の複数の部位においてドーパミン量が有意に高い値を示すことがわかった。一方で、低活動ラットにおいては、高活動ラットよりも有意に脳内のセロトニン量が多いことも明らかとなった。これらの結果から、自発運動量を低下させる要因として、ドーパミン量とセロトニン量のバランス、特にセロトニン神経系の役割が重要な役割を果たしている可能性が示された。そこで、我々は、神経薬理学的手法を用いて、脳内セロトニン量を増加させた場合、自発運動量の低下が認められるかどうかについて検討を行った。セロトニン量を増加させるセロトニン前駆体を高活動ラットの腹腔内に投与し、その自発運動量の変化を調査した結果、ラットの活動期である暗期の運動量がセロトニン前駆体投与によって有意に減少していた。また、マイクロアレイによる遺伝子発現変動解析によって、多数の関連遺伝子の変動が観察された。これらの結果から、日常的な自発運動量はセロトニン神経系によって調整されている可能性が示された。本研究の結果は、日常的な自発運動量の増加を考慮する上で非常に重要なデータとなると考えられる。
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