本研究では、炭素磁気共鳴分光法(13C-MRS)を用いて、低酸素環境が筋グリコーゲン(Gly)の利用(実験I)および回復(実験II)に及ぼす影響について検討した。 実験Iでは、低酸素環境が繰返し全力スプリント運動時のパフォーマンスと筋Gly代謝に及ぼす影響について検討した。間欠的運動に慣れている7名の被験者を対象とし、通常(N)または低酸素(H; 吸気酸素濃度15.0%)酸素環境下において、全力ペダリング5秒と0Wペダリング55秒を40回繰り返す運動を実施した。運動時の平均出力および運動前後における外側広筋のGlyが測定された。全力ペダリング時の平均出力はNと比較し、Hは有意に低値を示した。一方、運動前後における筋Glyの低下率はNと比較し、Hが有意に低値を示した。先行研究では、同一仕事量の運動では、低酸素環境は糖質代謝および筋Glyの低下率を亢進させることが報告されているが、本研究の結果、低酸素環境により繰返し全力ペダリング運動のパフォ―マンスが低下し、それに伴い筋Gly利用も低下することが明らかとなった。 実験IIでは、運動後の酸素環境の違いが筋Glyの回復に及ぼす影響について検討した。活動的な若年男性10名を対象とし、N環境下において、筋Glyが平均60%低下する運動を行った後、NまたはH環境下において、覚醒時休息(食事を含む)3時間および睡眠8.5時間を行った。外側広筋のGlyは運動前、運動直後、覚醒時休息3時間後、睡眠7時間後に測定された。運動後に低下した筋Glyは覚醒時休息により回復したが、NとHで有意差は認められなかった。しかしながら、睡眠後にはHで有意に低値を示した。以上より、運動後の筋Gly回復に対して、低酸素環境は覚醒時にはほとんど影響を及ぼさないが、睡眠時には筋Glyの回復を抑制する可能性が示唆された。
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