本研究は、東日本大震災発生前から行われている仙台市内の包括的健康調査のデータを用いて、震災発生前の生活習慣、健康状態、身体機能レベル、血中バイオマーカーが、災害発生後問題となる心的外傷後ストレス障害(PTSD)と関連することを明らかにすることを目的とし、災害発生前に評価可能なPTSD の危険因子を特定することで、災害発生前にPTSD ハイリスク者を事前に把握できることを世界で初めて示すことを目指した。 平成25年度においては、震災発生前の生活習慣、健康状態、身体機能レベルに注目し、PTSDの関連を検討した。その結果、男性においては、震災前の脚伸展パワーが高ければPTSD症状を示すスコア(IES-R-J)は低い値を示し、毎日の飲酒していた者やすでに抑うつ傾向であった者は高い値を示すことが明らかとなった。さらに、PTSD症状スコアの下位得点との関連に関しては、脚伸展パワーは侵入症状得点および過覚醒症状得点と負の関連を示した。一方、女性においては、高血圧であった者もしくは抑うつ傾向であった者はそうでない者と比較してPTSD症状スコアの値が高かった。 平成26年度は血中のバイオマーカーに焦点を当て、運動の実施によって増加することが知られている脳由来神経栄養因子(BDNF)とPTSD症状との関連について検討を行ったが、災害発生前の血中BDNFレベルとPTSD症状のスコアとの間に有意な関連は認められなかった。 したがって、本研究の結果より、身体機能が大災害に関連するPTSD症状の重症度を弱める修正可能な災害前危険因子である可能性が示された。このことから日常において身体機能を高く維持・増進させることが、災害時などの非常時のメンタルヘルスに対して好ましい影響を与える可能性がある。
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