低血糖が動脈硬化進展に関わっている可能性が示唆されているが、詳細は明らかではない。本研究では低血糖モデルラットを作成し、低血糖が血管障害後の内膜新生に与える影響を検討し、in vitroではその詳細なメカニズムを検討した。11週齢GKラットの頸動脈をバルーンで傷害し、3日毎に生食を腹腔内投与する群(S群)、インスリン(15U/kg)を投与し繰り返し低血糖を起こす群、インスリン(15U/kg)と共にブドウ糖を投与し低血糖を回避する群(IG群)に分け、低血糖の新生内膜形成に与える影響について検討したところ、各群間で体重や脂質代謝に関しては差を認めなかったが、I群ではS群およびIG群と比較し、細胞増殖を伴い頸動脈の血管傷害後の新生内膜形成が有意に増加した。低血糖によるアドレナリンの増加が新生内膜形成に与える影響を与えていると考え、次に生食投与+普通食群(SN群)、生食投与+α1受容体拮抗薬(塩酸ブナゾシン)混餌群(SB群)、インスリン投与による低血糖+普通食群(IN群)、インスリン投与による低血糖+α1受容体拮抗薬混餌群(IB群)の4群で検討した所、低血糖によりアドレナリンの増加を認めたもののα1受容体拮抗薬を投与しているIB群では、IN群と比較し細胞増殖の抑制と伴に血管傷害後の新生内膜形成の増加が有意に抑制された。以上から低血糖の際のアドレナリン作用によりバルーン障害後の内膜新生が亢進されると考えられた。更にIn vitroではラットSMCはアドレナリン刺激により濃度依存的にBrdUにて評価した増殖能は有意に増加し塩酸ブナゾシンを前投与することで抑制できた。以上から繰り返す低血糖によるアドレナリン作用の増加は、平滑筋細胞の増殖を促進し、バルーン傷害後の内膜の新生が増加することが示唆され、臨床においては特にインスリン治療中の患者の低血糖の合併に十分留意する必要がある。
|