本研究は、初期の2型糖尿病の増悪過程に焦点を当て、インスリン分泌能を高精度、簡便、迅速かつ低侵襲でモニターできるmiRNA マーカーの確立を目的とする。平成26年度までに、糖尿病発症の前段階と考えられる「インスリン抵抗性」特異的に発現変動する分泌型miRNAを49種類、マイクロアレイ法により同定した。そして、インスリン抵抗性モデルとして、高脂質食による肥満ゼブラフィッシュモデルを構築している。 本年度は、上記の同定済み分泌型miRNA、49種類のうち、発現上昇する2種類が動脈硬化に関わる可能性を見い出した。従って本年度は、インスリン抵抗性特異的に発現上昇するmiRNAは微小血管に影響を与え、糖尿病合併症を誘発するという仮説を立てた。そして、ゼブラフィッシュを用いた糖尿病合併症評価法すなわち、加速度脈波による動脈硬化評価法と、心電による心虚血評価法および自律神経障害評価法の開発も行い、加速度脈波加齢指数が高脂質食により有意に上昇することを明らかにした。上記2種類のmiRNAは動脈硬化に関わることから、インスリン抵抗性の段階から微小血管障害のリスクが高まっており、これら2種類のmiRNAは糖尿病合併症リスクを評価できるマーカーとして有効である可能性が考えられた。さらに、上記49種類のmiRNAのうち、発現上昇する4種類が種々のインスリン分泌過程に影響して分泌低下に関わることから、糖尿病初期のインスリン分泌低下リスクを評価できるマーカーとして有効である可能性も考えられた。そして、このうち1種類は、上記の動脈硬化関連miRNAと同一でもあった。 以上の結果から、インスリン抵抗性をもつ糖尿病予備軍の患者に対し、5種類のmiRNAを組み合わせて適用することにより、糖尿病発症段階でのインスリン分泌低下のみならず、糖尿病合併症に関わる微小血管障害をも総合的に評価できるマーカーとして有効である可能性が高いと考えられた。
|