これまでに、脳虚血ストレス負荷後の糖代謝調節の破綻を誘導し、それがその後の神経障害を悪化させる可能性を考察してきた。すなわち、脳虚血ストレス負荷後の血糖値の変動が神経障害の発現・進行に影響を及ぼしていると示唆される。本研究では、近年中枢末梢臓器間連関により、視床下部を介して末梢組織での糖代謝を制御することが報告された神経ペプチド orexin-A の虚血後高血糖ならびに神経障害発現に及ぼす影響ついて、さらにその機序解明の一つとして迷走神経の関与について検討を行った。 本研究により、orexin-A の視床下部内局所投与によって、肝臓での脳虚血ストレス負荷後の insulin 受容体の減少に伴った糖新生の亢進を抑制することが示唆された。視床下部にorexin-Aを局所投与することによって、延髄弧束核領域における神経活性化マーカーである c-Fosの有意な発現上昇が認められ、延髄から肝臓に投射している迷走神経の関与が、orexin-Aによる虚血性耐糖能異常の発現および神経障害の発現の抑制に関与している可能性が示唆された。さらに、肝臓枝迷走神経切除モデルおよび中枢移行性の無い抗コリン薬であるN-ブチルスコポラミンを用いた検討から、orexin-Aによるその抑制機序の一部に延髄から肝臓に投射している迷走神経の活性化が関与していることを明らかにした。 以上、本研究結果は、上位中枢における内因性生理活性ペプチドの活性調節が、脳卒中治療に対して有用であることを示唆していると同時に、脳虚血ストレス負荷後の全身性の耐糖能亢進による脳保護という新たな概念を脳卒中治療に導入するものである。
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