本研究の目的は、鉄代謝調節機構における活性酸素シグナルの役割を明らかにし、加齢に伴う鉄代謝異常の病態メカニズムを解明することである。ヒトでは加齢に伴って、組織での鉄過剰や鉄欠乏が起こる。これらの鉄代謝異常は、生体機能を低下させて老化を促進させるが、加齢に伴う鉄代謝異常の原因は明らかになっていない。本研究では、加齢に伴って増加する活性酸素や脂質過酸化物が、鉄代謝にどのような影響を与えるのかを解析する。 平成25年度には、主に培養細胞を使って脂質過酸化物である4-HNE(4-ヒドロキシノネナール)が、鉄代謝調節タンパク質IRP1(Iron regulatory protein 1)を強力に不活化することを見出した。細胞内の鉄代謝を統合的に制御するIRP1の不活化は、細胞内での鉄不足や鉄過剰の原因となる可能性がある。そこで平成26年度には、酸化ストレスや脂質過酸化物が細胞内の鉄代謝に与える影響を経時的に解析した。その結果、細胞内における脂質過酸化物の増加は、IRP1依存的な鉄取り込み輸送体の増加を抑制することが分かった。また、酸化ストレスや4-HNEを負荷した細胞からIRP1を精製し、質量分析計を用いてIRP1の翻訳後修飾の解析を行った。現在は、これまでに得られた実験結果をもとに論文を作成中であり、海外学術誌への投稿を予定している。
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