研究課題/領域番号 |
25750383
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
梅川 雄一 大阪大学, 理学(系)研究科(研究院), 特任助教(常勤) (20587779)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | アンフォテリシンB / 固体NMR / リン脂質二重膜 |
研究概要 |
ポリエン系抗生物質であるアンフォテリシンB(AmB)が脂質膜中で形成するチャネル複合体の構造解析を目指して、固体NMRによるアプローチを試みた。 まず、AmBとエルゴステロールを炭素13もしくはフッ素19で標識し、その標識原子間の距離を固体NMRの手法であるREDOR法を用いて、詳細に解析した。また、標識原子や部位の組み合わせを複数用いることで、多点での原子間距離を測定し、AmB-エルゴステロールの相対的な位置関係を決定することに成功した。 また、フッ素19標識AmBを用いて、CODEXという固体NMR測定法を応用し、予備的な結果ながらも、AmBチャネル複合体の形成に必要なAmBの分子数を推定することに成功した。これは、直接的な実験によりAmBの会合数を決定した最初の結果である。以上、AmBの会合数とエルゴステロールとの距離情報により、AmB複合体の全体像の大部分に関して具体的なモデル構造を描けるようになった。 さらに、今後の構造決定をするために必要なマイコサミン部位の配向情報の取得に向けて、新規重水素標識体の合成検討を行った。これまで報告されているAmBの合成例を参考に、まずAmBからマイコサミン部位を除去し、別途合成した重水素標識化マイコサミン部位を再導入するという方法で合成を行った。今後この標識体を用いて固体重水素測定を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
AmBの活性発現時に最も重要とされるエルゴステロールとの相互作用に関して、フッ素19および炭素13で標識された分子を用いて詳細な距離測定を行うことに成功し、これら2分子間の位置を正確に見積もることに成功した。また、チャネル形成に必要なAmB分子数の決定にも道筋を立てることができた。さらに、マイコサミン部位に重水素と導入した新たな標識体の合成にも成功し、今後の固体NMR測定による配向の測定に用いる。以上のように、検討に多くの時間を必要とする化学合成や、固体NMR測定法の実験系を確立することがで、今後予定されているNMR測定、分子動力学計算をスムーズに行うことができると期待している。
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今後の研究の推進方策 |
合成に成功した新規重水素標識体を用いた固体NMR測定により、マイコサミンの配向解析を行う。また、予備的な実験に成功しているAmBチャネルに含まれる分子数を決定し、チャネル形成時のAmBの配置を推定する。さらにREDOR測定から求められたAmB-エルゴステロールの距離情報をもとにエルゴステロールを配置し、AmB-エルゴステロール複合体のモデル構造を構築する。 その情報をもとにチャネル複合体を脂質二重膜に埋め込みMD計算を行い、AmB-エルゴステロール-リン脂質の三者複合体の全体像を明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
合成検討が主の段階であり、非標識体で検討を行ったこと、また標識体の合成ルートの検討から、標識前駆体の使用段階を後半にする等の工夫により、標識体の使用量が抑えられた。固体NMR測定の測定も効率的に行うことができ、用いる器具の消耗が抑えられた。 確立した合成法に従い、固体NMR測定に必要な試料を合成するため、大量スケールでの合成を予定しており、標識体等の試薬代に充てる。また、固体NMR測定をさらに積極的に行う必要があり、そのための消耗品として使用する。また必要に応じて、MD計算に必要なソフトウェアの購入を行う予定である。さらに、得られた結果を国際会議にて発表する予定であり、その旅費として使用する。
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