研究課題/領域番号 |
25750394
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
真鍋 良幸 大阪大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (00632093)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | リン酸化シグナル / コンビナトリアルケミストリー / N-グリカン / コアフコース |
研究実績の概要 |
本研究では,TGF-βのSmad2のリン酸化を介したシグナル伝達の制御分子の開発を目指している.具体的には,リン酸化Smad2(pSmad2)を認識する分子と脱リン酸化活性を持つ分子を探索し,これらを連結することで,pSmad2を特異的に脱リン酸化する分子の開発を行う.昨年までに,脱リン酸化活性を持つジペプチドを見出しており,本年はpSmad2認識分子の開発を目指した. pSmad2認識分子の開発には,当研究室で開発された“鋳型有機合成”を用いた.まず,“鋳型”となるpSmad2のリン酸化部分配列と,アジドを導入したトリペプチドライブラリーおよび,アルキンを導入したトリペプチドライブラリーを合成した.続いて,“鋳型”存在下で,合成したライブラリーを作用させてクリックケミストリーを行った.その結果,“鋳型”存在下で有意に生成量が増加するペプチドライブラリーの組み合わせを見出し,現在,これらのペプチドとpSmad2との親和性を検証中である. 加えて,TGF-βのシグナル伝達制御のために,翻訳後修飾糖鎖の構造を認識するペプチドの探索も行っている.TGF-β受容体は糖鎖による翻訳後修飾を受けており,この翻訳後修飾糖鎖からコアフコースと呼ばれる糖を取り除くとシグナルが伝達されなくなる.そこで,このコアフコース含有糖鎖を認識する分子を創製し,この分子を用いてTGF-βシグナルの制御を検討しようと考えた.本年は,そのためにビオチン標識化したコアフコース含有糖鎖の合成および,コントロールとして用いるコアフコースを持たない糖鎖の合成を行い,現在,これらを認識するペプチドを探索中である.また,コアフコース構造の除去もTGF-βのシグナル伝達阻害につながると考え,コアフコースを形成する糖転移酵素であるFUT8の阻害剤の開発も行い,現在までに数μM程度でこの酵素を阻害する化合物を得ている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
TGF-βのシグナル伝達制御分子の開発において,その下流のシグナル伝達分子のひとつであるリン酸化Smad2(pSmad2)認識分子の探索を行っている.そのために必要なライブラリーおよび“鋳型”分子の合成を達成し,これらを用いたスクリーニングも行った.その結果,pSmad2認識分子候補化合物を得ることに成功し,現在その機能評価を行っている.そのため,想定していた程度の成果は得られている.一方で,ここで開発した手法はスクリーニングに非常に時間がかかり,効率的な方法とは言えず,今後,より汎用性の高い方法にするためには,方法論の改良が必要である. また,本年度から,TGF-β受容体の翻訳後修飾糖鎖に着目したシグナル伝達制御にも着手した.このような研究は全く前例が無く,極めて独創的である.現在までにコアフコース含有糖鎖およびコントロールとして用いる糖鎖のビオチン標識体の合成を完了した.これらの糖鎖は分子量1500を超える分子であり,合成に大きな困難を伴が,酵素合成を有効に利用することで,これらの合成を達成でき,一定の成果は得られている.現在,コアフコース含有糖鎖を認識するペプチドのスクリーニングを行っているが,糖鎖特有の柔軟な構造のために,これを認識する分子の探索は難航している.今後,ライブラリーのサイズを大きくするなどの検討を行い,目的の分子を開発する.一方,コアフコース構造の生合成酵素であるFUT8の阻害剤の開発も順調に進んでおり,既に数μMでFUT8を阻害する化合物を得ており,これから,in vivoでの評価を行う.
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今後の研究の推進方策 |
pSmad2認識分子の候補化合物として得られたペプチドの機能評価をITCを用いて行う.その結果,良好な結果が得られた場合には,1年目に開発した脱リン酸化活性を持つペプチドと連結してpSmad2に特異的な脱リン酸化分子の開発を目指す.さらに,その分子を細胞系で利用することを検討する.細胞系での利用に当たっては,Western blottingにより抗体を用いてpSmad2を検出する系を構築し,pSmad2の増減を観察する.一方,また,より汎用的に利用可能な鋳型有機合成の手法の開発も併せて検討する.具体的には樹脂上で鋳型有機合成を行い,反応したペプチドのみが環状化して樹脂から切り出されてくる方法論を構築する.これにより迅速な認識分子の探索が可能となると考えている. 一方,翻訳後修飾糖鎖の構造に注目したTGF-βシグナルの制御にも力を入れる.合成したコアフコース含有糖鎖に対する認識ペプチドの探索を引き続き行う.ライブラリーの分子サイズを大きくする,用いるアミノ酸の種類を増やすなどしえ目的の分子を見出す.見つけ出した分子を用いてTGF-βシグナルの制御が可能であるかどうかについても細胞レベルで検証する.これと加えて,コアフコース含有レクチンを用いて糖鎖構造認識分子によるTGF-βシグナルの制御が可能であることの検証も並行して行う.また,コアフコースの生合成酵素であるFUT8の阻害剤の開発も引き続き行う.これまでに見出した構造をもとの構想活性相関を行い,nMレベルで効果を持つ阻害剤を開発する.加えて,細胞系でこの化合物が有効に働くかを検証するとともに,もし,有効に働かなかった場合には,プロドラッグの手法などを用いて細胞膜透過性などを調節する.加えて,本化合物を用いたTGF-βシグナルの伝達阻害についても検証する.
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